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春から秋にかけて降ってくる氷「雹(ひょう)」「霰(あられ)」 大気の状態が不安定な日には、注意を

今年(2023年)の4月8日、兵庫県や大阪府の一部に、雨に混じって氷の粒、霰(あられ)や雹(ひょう)が降りました。
4月16日の午後にも、東京の都心で直径8ミリのひょうが観測されています。この日は、午前中は晴れて気温が上がり、関東甲信や東海、九州などで日中の最高気温が25度を超える夏日となっていました。
「暑い季節に、あられやひょうの氷が降るなんて!」と、不思議に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
あられやひょうは、春から秋の季節だからこそ、注意が必要です。大きなケガや、車や建物などの破損、農作物への被害などにもつながる可能性のある、あられやひょう。できる仕組みを知って、対策や備えにいかしましょう。

あられとひょうは何が違う?どうやってできる?

あられもひょうも、どちらも空から降ってくる氷の粒です。その違いは、大きさ。直径が5mm未満のものが「あられ」で、直径が5mm以上のものが「ひょう」です。
あられは、冬の季節にも雪と一緒に降ったり、雪があられに変わることもあります。冬の季節には、ひょうになることなく、あられのまま降ってきます。
ひょうが降るのは、地上は暖かくても上空に冷たい寒気が入っている「大気の不安定」な状態になりやすい、春から秋にかけての季節です。地上の気温がそれほど低くない5月〜6月にあられやひょうが降りやすいのは、積乱雲から降ってくるためです。
雷雲とも言われる、積乱雲。もくもくとわき立つ積乱雲が、激しい雨や雷、突風をもたらす風景を、夏の始まりの頃の風景としてイメージする方は、少なくないのではないでしょうか。
この積乱雲の中では、氷の粒のあられやひょうが作られることもあるのです。

積乱雲の中では、雲の高いところから降ってきた雪の結晶に0°Cよりも冷たい水の粒がくっついて凍ります。これが回転しながら落下したものが、あられです。

このあられが、落下する途中で地上付近の0°C よりも温かい空気で表面がとけた後、雲の上昇気流で0°Cよりも冷たい空気の層まで持ち上げられると表面の水の膜が再び凍ります。これを繰り返すことで氷の粒がだんだんと大きくなり、ひょうになります。ある程度の大きさになると、上昇気流よりも落ちる速度の方が速くなって、私たちのいる地上に降ってくるというわけです。

霰や雹が降ってくるときには、大気の状態が不安定で積乱雲が発達しています。局地的な激しい雨や突風、落雷をともなうこともあり、注意が必要です。

過去のひょうによる被害

過去にも、ひょうは、多くの建物や車、農作物などへの被害を出しています。ひょうによって負傷した人や、亡くなった人も出ています。

2022年6月2日から3日にかけて、関東の広い範囲で、大きなものではゴルフボール大のひょうが降りました。埼玉県内の住宅計約1140棟で窓ガラスが割れる被害が出たほか、ガレージの屋根が破損して駐車していた車のガラスが割れたり車体が傷つくなどの被害が出ました。小学校でも倒木や窓ガラスが割れるなどの被害、幼稚園では渡り廊下の屋根が破損する被害も出ています。農業用ハウスのシートに穴が空いて、中で栽培していた野菜に傷がつくなど、農作物にも大きな被害が出ていて、埼玉県内の農業用生産施設が負った推定被害金額は約38億円以上になったと言われています。

2019年5月には、4日に東京都でひょうが降り、多摩市では店の看板の破損や、道路や駅構内が冠水するなどのほか、立川市・府中市・町田市・小平市・日野市など11市で約9300万円もの農作物の被害が出ました。また、同日の埼玉県では県内8市1町で約1億2156万円にも上る農作物の被害が、群馬県では直径1〜1.5cmのひょうが観測され、約8億4645万円もの農作物の被害が出ています。
4日、12日、13日には、山梨県でもビー玉ほどの大きさのひょうが降り、ブドウや桃などの農作物に被害をもたらしました。
6日には山形県長井市、7日には秋田県大館市、14日と15日には福島県でも、農作物への被害を出しています。

2000年5月24日には、茨城県南部と千葉県北西部でミカン大のひょうが降り、窓ガラスの破損や、160人以上の負傷者が出る被害がありました。

1996年7月3日には、九州・東北・関東などでひょうが降り、特に埼玉県ではゴルフボール大のひょうによって自動車会社の新車約6000台のフロントガラスが割れたり、ボディーに傷がつくなどの被害を出しました。

さらに大正までさかのぼると、1917年6月29日に現在の埼玉県熊谷市で重さ約3.4kg、かぼちゃ大(直径約29.6cm)のひょうが降った記録があります。

ひょうの落下速度と、引き起こされる被害

過去の災害から、ひょうが降った時にはどのような被害が出るのか、なんとなくイメージできるのではないでしょうか。

氷の塊のひょうは、大きくなるほど、その落下速度も早くなります。
直径5mmのひょうでは、時速36km。10mmになると、時速50km。50mmになると、時速115km。70mmになると、時速140km。
直径が5cmを超えると、時速100kmを超えた速度で落下してくるのです。「直径5cm程度の氷の塊は、そんなに重くないから大丈夫なはず。」と油断してはいけません。時速100kmを超えた速さで落下してきた氷の塊に直撃されれば、大きなケガにつながります。車が破損したり、住宅などでは窓ガラスが割れたり、トタンなどでできた屋根やカーポートのポリカーボネート板でできた屋根を突き抜けてしまうこともあります。

また、農業への被害は深刻なものになります。農業用ハウスのシートに穴が空くなど、農業用施設が破損してしまうほか、出荷前の作物が傷付いたり、植物の茎が折れたりなぎ倒されるなどの被害が出ます。その年の収穫量が大幅に減ってしまうだけでなく、農業用施設が破損してしまったり苗にも被害が出ることで、存続の危機に立たされる農家もあるかもしれません。
農家のひょうによる被害は、私たち消費者の食卓にも影響が出てくるはずです。

粒の小さなあられでも、たくさん降って積もってしまえば、道路は氷の粒に覆われて非常に滑りやすくなります。スリップ事故や転倒などに注意しましょう。排水溝などが詰まって、道路が冠水することもあります。

あられやひょうが降りそうなときには、農家の方たちはできる限りの農作物の管理などをする必要がありますし、車などへの衝撃をやわらげる対策や、建物の窓まわりなどの対策が必要です。
なによりも、あられやひょうが降っているときには、ケガをしないために、外に出ないようにしましょう。

あられやひょうが降る時の前兆と対策

発達した積乱雲がもたらす、あられやひょうは降る時には、前兆があります。
  • もくもくした、大きな積乱雲が近くに見える
  • 黒い雲が近づいてきて周りが急に暗くなった
  • 急にひんやりとした風が吹いてきた
  • 急に強い雨が降ってきた
  • 雷鳴が聞こえたり、雷光が見えたりする
また、天気予報などでは「大気の状態が不安定」や「上空に強い寒気が」という言葉で注意が呼びかけられることもあります。こうしたキーワードを聞き逃さないようにしましょう。

このような前兆を感じたら、できるだけ早く屋内に避難するようにしましょう。部屋の中では、カーテンを閉めるなどして、ひょうでガラス窓が割れた時に備えましょう。
車を運転しているときには、なるべく頑丈な屋内駐車場に避難しましょう。避難できるような駐車場が近くになく、あられやひょうが降り出してしまい、運転を続けることが不安になるような時には、落ち着いて、周りの状況を確認しながら減速し、路肩などに停車して、車内で待機します。
自宅でも屋外にクルマを停めていて、ひょうによる車の被害が心配な場合には、風で飛ばされないような対策をしながら厚手の毛布や布団などで車体を覆うことで、衝撃を和らげて車の損傷を最小限に抑えることができます。ただし、身の安全を最優先に考えることは、言うまでもありません。

もしも、ひょうで被害が出たら、保険で補償される?

氷の塊、ひょうに直撃されたら、住宅や自動車などに損傷を受けてしまうことは避けられないかも知れません。ひょうで受けた住宅や自動車の被害にも、基本的には加入している保険による補償が受けられます。しかし、いくつか注意する点もあります。

住宅に受けた被害

住宅に受けた被害は、基本的には火災保険で補償を受けられます。火災保険には一般的に「風災・雹災・雪災」がセットになった風災が基本補償に含まれています。ただし、保険料を安くするために雹災や雪災を外したものもあるので、契約内容の確認が必要です。

また、火災保険では保険の対象を「建物のみ」「家財のみ」「建物と家財」の3つのパターンから選べますが、「家財のみ」を選んでいる場合には自転車や家財道具などの補償はされますが、被害にあった屋根や窓ガラス、カーポート、ベランダなどは補償されません。
どのような契約をしているのか、平時に確認しておきましょう。

自動車に受けた被害

自動車に受けた被害は、加入している車両保険で補償を受けられます。しかし、車両保険を使って修理をするときには、注意する点があります。

まず一つは、車両保険を使うと、自然災害による被害でも、翌年度は1等級下がり、事故有係数適用期間が1年加算されること。つまり、翌年度の保険料が高くなり、等級が進むのも遅くなります。
また、免責金額(自己負担額)の設定にも、注意が必要です。車両保険の免責金額を設定した場合には、保険金として支払われるのは修理代から免責金額を差し引いた金額です。実際にかかった修理代金が、免責金額よりも下回っていれば、保険金は支払われないことになります。
翌年の保険料が上がることや、免責金額をいくらに設定しているのかなども考慮して、車両保険を使うべきかどうか、よく検討する必要があるかもしれません。

あられやひょうは、雷とセットで注意を!

大きな被害を出す可能性がある、あられとひょう。気象情報で「霰注意報」や「雹警報」などはありませんが、雷雲とも言われる積乱雲から降ってくるものです。
雷注意報が発表されたときには、同時にあられやひょうにも注意が必要だということを、覚えておきましょう。
天気予報などで「大気の状態が不安定」や「上空に強い寒気が」という言葉が出てきたときにも、特に5月〜6月にかけてはあられやひょうが降る可能性があるということを意味しています。
すべての被害を防ぐことは難しいかもしれませんが、できる限りの対策は取っておきましょう。


参考資料

「世界でいちばん素敵な雲の教室」荒木健太郎著 三才ブックス

「NHK気象・災害ハンドブック」NHK放送文化研究所編 NHK出版

「一般気象学」小倉義光著 東京大学出版会

「すごすぎる天気の図鑑」荒木健太郎著 KADOKAWA

「すごすぎる天気の図鑑 雲の超図鑑」荒木健太郎著 KADOKAWA

ウェザーニュース 関西で局地的に雹や霰寒気の影響で大気の状態不安定 2023/4/8

ウェザーニュース 霰(あられ)と雹(ひょう) その違いと危険性

NHK 西日本から東日本 あす昼前にかけ大気不安定 落雷などに注意 2023/4/16

NHK 大気が不安定な理由 2022/5/23

防災歳時記(8)多彩なひょうの災害

東京新聞 埼玉県北部でひょうや突風 2人けが、1140棟で窓ガラス割れる 2022/6/4

国立研究開発法人防災化学研究所 水・土砂防災研究部門 ひょう災害一覧

奈良地方気象台 雷と雹による災害事例

埼玉県熊谷地方気象台 令和4年6月2日、3日のひょう害

tenki.jp 九州~関東 天気急変に注意 東京都心で直径8ミリの「ひょう」観測 各地の警戒期間 2023/4/16

姫路科学館 サイエンストピック 科学の眼

JAF 運転中に雹が降ってきたらどうする?

インズウェブ 雹やあられで車が傷ついてしまったら車両保険で修理できる?

こくみん共済 あんしんのタネ

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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