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東日本大震災の津波の高さは最大何m?遡上高とは?今後の巨大地震の予測も知っておこう

前回の記事では、津波のスピードや威力、避難時のポイントについて紹介しました。


今回は東日本大震災でおきた津波の大きさや、今後30年で70~80%の確率でおきるとされる「南海トラフ地震」、過去の巨大津波の堆積物から地震がおきる周期となっている「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震」で予測される津波をもとに、実際に巨大地震がおきたときの津波被害の大きさについて考えてみましょう。

東日本大震災でおきた巨大津波

東日本大震災の津波は観測史上で最大規模となり、それまでの予測を大きく超えたまさしく“想定外”のものとなりました。
津波の高さは、海岸線での波の高さのことをいいますが、東日本大震災では観測施設が被害にあったため津波の高さを測れない場所もありました。そのため、津波の痕跡から津波の高さを推定したところ、岩手県の大船渡が最大で16.7mだったとされており、その他の多くの地域でも10mに迫りました。16.7mとなるとビルの5階に相当しますので、標高の低い場所にある多くの建物は飲み込まれてしまいます。
また、東日本大震災でおきた津波は太平洋の対岸まで到達し、地球の裏側となるアメリカ大陸と南アメリカ大陸の西岸でも2mを超す津波が観測されています。

海岸に届いた津波は、さらに陸地を進み高い場所にかけ上がります。陸地を進んだ津波が到達した高さを「遡上高(そじょうこう)」と呼びますが、遡上高は海岸での津波の高さよりも高いところまで届きます。
津波の高さが最大だった大船渡では遡上高は23.6m。岩手県の宮古では津波の高さが9.3mだったのに対し、遡上高は最大で28.8mとされています。また、別の調査では、大船渡市綾里湾で局所的に40.1mの遡上高が記録されています。

  津波計等による
最大の津波の高さ
痕跡等から推定した
津波の高さ
付近で観測された
遡上高
八戸 4.2m 以上 6.2m -
久慈港 - 8.6m 13.4m
宮古 8.5m 以上 9.3m 7.8-28.8m
(田老)
釜石 4.2m 以上 9.3m 16.9–17.1m
(両石)
大船渡 8.0m 以上 16.7m 11.0–23.6m
(綾里白浜・長崎)
石巻市鮎川 8.6m 以上 7.7m 16.7m
(雄勝)
仙台港 - 7.2m 9.9m
(仙台港区)
相馬 9.3m 以上 8.9m 11.8m
(相馬港)

(出典:平成22年度 国土交通白書 第1章第1節)

巨大な津波は陸地の広い地域へと広がり、浸水面積は全体で561km2となりました。東京都23区の面積が622km2となっていますので、23区の約9割の大きさの土地が水没してしまったこととなります。
また、どのような場所が津波の被害にあったかをイメージするために、浸水した状況について詳しく見てみましょう。標高別に浸水した割合を見てみると、標高5m以下で約67%、標高5~10mで約27%となっています。標高5~10mでも多くの地域が浸水をしていますので、かなり高いところまで津波がくると考えておきましょう。

海岸からどれくらいの距離まで浸水したかを見てみると地形によって津波が届く距離は変化することがわかります。地盤の低い平野は浸水する地域が広くなり、リアス式海岸など山地が海外線まで迫る地域では浸水する地域が狭くなります。また、津波は河川に沿って遡上しやすくなるため、河川の周りは被害が大きくなります。
東日本大震災では、河川から離れた地域の場合、平地では海岸線から4~5km、リアス式海岸では1kmが浸水地域となりました。河川沿いの場合、平地では最長8km、リアス式海岸では最長5~6kmまで浸水しています。

このように、河川沿いは特に注意が必要となりますが、浸水地域が狭いとされるリアス式海岸でも被害をまぬがれるのは標高の高い部分だけで、低地となる部分は浸水することとなります。そのため、津波の可能性があるときには河川沿いを避けながら、できるだけ高い場所に避難することが大切です。

想定をはるかに超えた被害

東日本大震災がおきる前に想定されていた浸水面積は270km2とされていましたが、実際には561km2と2.1倍との面積となっています。特に宮城県、福島県では想定と実際の被害が大きくかけ離れ、津波の高さは最大9倍、浸水面積は約17倍となり、大きな被害へとつながりました。
東日本大震災では津波の大きさに危険を感じ、避難訓練で指定されていた避難場所より高い場所へ移動したところ、始めにいた避難場所は水没してしまったという事例もありますので、日ごろから複数の避難場所を確認して、より高い場所を目指すようにしましょう。

今後の巨大地震で想定される津波

東日本大震災での被害が想定を大きく超えたことから、内閣府が行っていた南海トラフ地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震などの被害想定は見直しをされることとなりました。
これから紹介する地震と津波の大きさや被害は、東日本大震災をふまえた「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」によっておきる「最大となる被害想定」となります。そのため、次にくる地震がこの規模の被害になるかはわかりませんが、どのような地震がおきても大丈夫なようにしっかりと備えておきましょう。

南海トラフ地震や日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震は、海底が震源となる海溝型地震であることから巨大津波がおこり、津波での人的被害が最大となるとされています。
南海トラフ地震では“千葉県から宮崎県”の太平洋沿岸で、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震では“北海道から千葉県北部”の太平洋沿岸で5m以上の津波が予測されています。
また、日本海にも断層があり、5mを超え局所的には20mとなる津波がおきるとされていますので、日本全国どこにいても津波の脅威があるものと考えておきましょう。

南海トラフ地震の津波

南海トラフ地震が想定される最大クラスになった場合、静岡県の駿河湾から宮崎県の日向灘までの広い地域で震度6強以上の大きなゆれとなる可能性があり、津波の高さは千葉県から宮崎県の太平洋沿岸でほぼすべての地域で5m以上、その半分近くの地域で10m以上と予測されています。
津波の高さが最大となるのは、高知県で最大34m、続いて静岡県で最大33m、東京都島しょ部で31mと予測されています。東日本大震災の津波の痕跡が16.7mとなっていますので、津波の高さが最大で約2倍になると予測されています。その他、愛知県、三重県、和歌山県、徳島県、愛媛県と多くの地域で津波の高さが最大20~30mとなる可能性があります。
浸水域は1,015km2となり東日本大震災の約 1.8 倍。津波による死者数は悪条件が重なった場合には最大で22.4 万人とされています。東日本大震災の津波による死者数は全体の死者数15,270人の9割以上といわれていますので、津波による死者数は約15倍と比較にならない被害がおきることがわかります。

このように非常に大きな被害が予想されることから、津波の高さが最大となる高知県では津波避難タワーが100基以上も建てられるなど対策が進められています。地震避難タワーを使いながら、全員が「昼間の場合5分後、深夜の場合10分後」に避難を開始した場合には、津波による死者数を昼間では77%減、深夜では56%減とできるとの予測がありますので、いち早く避難を開始して移動しながら大きな声で周りに知らせるようにしましょう。

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の津波

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震が想定される最大クラスになった場合、津波が5mを超える地域は、北海道では道東、えりも町、苫小牧町。本州では青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県と非常に広い範囲でおこります。とくに被害が大きな地域としては、北海道えりも町では最大28m、北海道道東のえりも町から根室市の間で20~25m、本州では青森県の太平洋側、岩手県、宮城県で10~15mの津波となります。

悪条件が重なった場合、津波での死者数は最大19万9千人になるとされ、南海トラフ地震の被害に匹敵します。日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震でも、いち早い避難と声かけによって津波による死者数を76%減とできると予測されています。


このように、今後おきる巨大地震では、東日本大震災よりも大きな被害がおこる可能性があります。津波の被害を減らすにはいち早く、より高い場所への避難が最大の対策となりますので、非常用持ち出し袋を取り出しやすい場所に用意しておくとともに、貴重品を1箇所にまとめてすぐに避難できるようにすること。また、避難をするときには大声で周りに呼びかけながら移動するようにしましょう。

今回紹介した津波の規模や被害は「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」によっておきる、「最大となる被害想定」となるため、想定と同じ被害がおきるかはわかりませんが、東日本大震災でそれまでの想定を超えた被害がおきたことを考え、最大限の備えをしておきましょう。

参考資料

気象庁
南海トラフ地震に関連する情報

南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ
南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)
南海トラフの巨大地震による津波高・浸水域等(第二次報告)及び 被害想定(第一次報告)について
資料1-1 南海トラフの巨大地震による津波高・震度分布等
資料1-2都府県別市町村別最大津波高一覧表<満潮位>

南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ
日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について
日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について【定量的な被害量】
日本海溝・千島海溝沿いにおける最大クラスの震度分布・津波高等の推計

東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ
痕跡調査結果


気象庁
【災害時地震・津波速報】平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震

平成22年度 国土交通白書 第1章第1節

国土交通省国土地理院 応用地理部防災地理課
津波による浸水状況 -平成23年東北地方太平洋沖地震 -

東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会(第7回)
従来の被害想定と東日本大震災の被害

国土交通省
日本海における大規模地震に関する調査検討会
日本海における大規模地震に関する調査検討会報告(概要)

この記事を書いた人

moshimo ストック 編集部

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