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人はどうやったら避難するのだろう?

巨大地震・津波の想定

千島海溝と日本海溝を震源とする巨大地震の想定を、12月21日、内閣府が発表しました。被害の大きさに驚いた人も多いと思います。東日本大震災(2011)では当時の想定を大きく上回る津波によって未曾有の被害が発生し、防災専門家や識者・論者の間では想定の甘さや想定外を想定する難しさが議論されました。東日本大震災の反省を受けて、その後の被害想定は最大の地震・津波を前提に、津波高や犠牲者数、被害額などが想定されています。
 南海トラフ巨大地震や今回の千島海溝・日本海溝の大地震の想定は、わたしたちに災害の脅威を教えますが、地域や世代によっては、想定のあまりの厳しさに諦めのような重苦しい空気が漂っているのも事実です。一方、行政が津波対策を最優先させ、学校のこどもたちが地域の住民たちと一緒に防災訓練を行ったり、こどもたちが防災を学び、それを地域住民に伝えたりする防災教育が進んでいる事例もあります。

気象予報と被害想定の精度は格段に向上

大雨による洪水や土砂災害の場合はどうでしょうか。ここ数年、毎年のようにどこかで被害が発生しています。今年の梅雨から夏、台風シーズンもひどい雨が降りました(この季節を私は「雨季」と呼んでいます)。日本は大雨に弱い国土であることは明白です。
ハザードマップではどこが浸水し、どこが土砂災害の危険な区域なのかが明確に示されています。川の水位と堤防の高さ、地域の標高、斜面の傾斜などから導き出されている想定は、実際の水害時にもほぼ同じ地域が被害を受けた近年の事例を見ても分かるように、かなり正確です。気象庁による予報やテレビの天気予報、お天気アプリの情報は今後の雨量や台風の進路を高い精度で教えてくれます。大雨の予報が出されたら、リスクのある地域に住んでいる住民に対して行政が避難を呼びかけます。
にもかかわらず、避難する人は相変わらず少ないままです。人はなぜ逃げないのだろうと、防災専門家や行政の防災セクター、防災士など防災意識の高い人々が議論を繰り返します。

なぜ人は逃げないのだろう?

地震の場合は災害発生後の避難です。津波の場合は、地域によってはほとんど時間がない中での駆け足の避難となります。少しはゆっくり避難できる地域もありますが、それでも1時間程度の余裕しかありません。
大雨の場合はどうでしょうか。過去には避難勧告や避難指示が出される前に被害が発生したこともありました。2021年7月に発生した熱海の土石流では、避難レベルは3でした(※)。つまり、大雨の場合は、行政による避難指示を待っていては逃げ遅れてしまう危険もあるのです。早期避難こそが重要な行動だと言えるでしょう。そのためには気象に関心を持つこと、地域のリスクを把握しておくこと、避難が必要な場所に住んでいる人は避難の準備をしておくこと、この3点は防災教育の基本として強調しておきたいと思います。
でも、人は逃げません。なぜでしょうか。専門家は安全性のバイアスとか、経験逆機能とか、避難行動を抑制する理由を説明します。顔見知りの呼びかけが大事だと、過去の教訓を教えます。避難行動を開始するスイッチを探し求めています。それでも人は逃げません。なぜでしょうか。

※現在はこれまでの「避難勧告」と「避難指示」が「避難指示」に一本化され、5段階の避難レベルが設定されている。

避難所を改善しないと・・・

ここからは、極めて不謹慎な話をします(おそらく、防災専門家からお叱りを受けると覚悟しています)。避難所が劣悪すぎるんです。阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震の時の避難所の映像がテレビで流されます。あんな環境のところには行きたくないと思うのが普通の市民感覚ではないでしょうか。大雨の時、公民館に避難している方がテレビのインタビューに答える姿も、お決まりのように報道されます。毛布をかぶって床に寝転んでいる姿を見ると、日本の避難所は非人道的だと理解できます。あそこは生活する場所ではありません。危険な災害が過ぎ去るのを待つ(家を失って避難している人にとっては仮設住宅が建設されるまでを待つ)我慢の場なのです。
だから、避難所なんて行きたくないんだと言って仕舞えば、言い過ぎでしょうか。大都会の巨大災害では、これからも阪神・淡路大震災の時のような避難所が生まれるでしょう。もちろん、それを我慢しろと言っているのではなく、そこは改善していかなければならないと考えています。でも、地方の、数人から100人程度の避難所なら、もうすこしアイデアを出し合って、誰もが行きたがる避難所にできないでしょうか。

さて、不謹慎な話の核心です。避難所で、例えばカラオケ大会をしませんか。これなら楽しく過ごせます。空振りであっても、楽しかったという経験は残ります。もちろん、カラオケが切り札なのでは無く、我慢を強いる避難所を楽しい避難所に変えてしまえば避難する人がもう少し増えるのではないか、そういう提案として受け取ってください。
そんな、避難所改善アイデアをこどもたちと話し合う防災教育も楽しいですね。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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