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学科・類型・コースの特徴を活かした防災活動

どんどん多様化する学びの場

高校の学科は普通科と専門学科、総合学科の3つに大別され、その下にコースや類型を設けている学校がたくさんあります。
専門学科の名称は多様で、昔は機械科とか家政科、農業科、商業科と呼ばれていましたが、今ではIT工学科や生活創造科、人と自然科など、進化する学びの内容に合わせて名称もどんどん多様化しているようです。試しに私が暮らす兵庫県で専門学科を持つ高校を数えたら59校もありました。防災に関わって言えば、舞子高校の環境防災科が有名です。全国で初めて防災を専門に学ぶ学科として2002年にスタートしました。さらに、普通科や専門学科の下にコース・類型を持つ学校もたくさんあります。これだけ多様だと、中学生がどの学校、学科を進路に選ぶか困ってしまわなかと心配します。
それだけではなく「学校設定教科・科目」という制度もあります。学習指導要領が定めている教科以外に、学校が独自に教科・科目を設定できます。この制度は中学校にもあって「その他特に必要な教科」と呼ばれています。ここで防災に関わる教科・科目を設置している学校もあります。
このような学科、コース・類型、学校設定教科・科目(その他特に必要な教科)を活用して防災の学びを進めている学校が全国に増えてきました。以下、いくつかの面白い実践を紹介します。

ジェンダーフリーの発想でAEDシートをデザイン

AEDの使用率は、対象の性別によって大きく違ってくるそうです。京都大学などの研究グループが、全国の学校で心停止となった232人に救急隊の到着前にAED使われたかどうかを調べました(2008年~2015年)※ 。小中学生では男女に有意な差はなかったのですが、高校生・高専生では男子生徒83.2%、女子生徒55.6%高校と明確に差が出ました。
それを知った福祉を学ぶ女子高校生たちは、AED使用時に女性の上半身にかぶせるシートがあれば使用する側の心理的な抵抗が減ると考えました。材料や形を工夫し、シートにはAEDの使用方法が一目でわかるアップリケを取り付けました。試作品を作る度に自転車を飛ばして消防署に行き、アドバイスをもらったそうです。改良を重ね完成したAEDシートは町内のすべてのAED設置場所に寄贈しました。

詳しくはNHK生活情報ブログをお読みください。(https://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/1100/406175.html

コロナに負けない食事の提案

新型コロナ感染症は、感染爆発を引き起こす「誘因」(ウイルスです)があり、ウイルスが広がっていく「素因」(3密と呼ばれています)があります。そして、備え(ワクチン接種や新しいスタイルの生活)と対応(医療方法の確立)が感染症と戦う方法です。突然、学校が閉じられてしまうこともあります。その意味で、パンデミックは災害と言えます。
新型コロナ感染症が猛威を振るい始めた時、日本中の学校が突然休校になりました。その間、食を学ぶ高校生たちはコロナに負けない免疫力アップのレシピを考えました。自宅で調理し、写真を撮ってレシピ本にまとめました。特別な食事ではなく日頃のおかずとして楽しめそうです。私などは「おつまみにいいなあ」と感心しています。

京都の歴史と災害を学ぶ

高校のコース・類型では地域の特徴を学びに取り入れている学校があります。京都のある高校では、生徒たちは方丈記の火災の記述を読み、それを現在の地図に落とし込んでいく作業を通して火災の恐ろしさを学びました。そして、地元の世界遺産の寺院の防災訓練に参加し、自分たちが学んだ防災をポスターにして発表しています。
コロナ禍でこういった訓練が中止、延期になっている今は、地元のテレビ局が開いているCMコンテストに参加するなど、防災の入力と出力の両方に力を入れています。

福祉避難所と地域の高齢者

地域の避難所は2種類に大別できます。一般の避難所と特別な支援が必要な人を対象とした福祉避難所です。最近では福祉避難所の指定が進んでいるようですが、自分の学校や施設が福祉避難所に指定されているのを知らなかったとか、知っているけれど何をすべきかがわからない、訓練も未実施だといった声もよく聞かれます。せっかくの福祉避難所指定なのだから、内容の伴うものにしたいですね。
福祉を勉強しているある高校の生徒たちは地元の福祉避難所の数と収容人数を調べました。そして、地域に住む高齢者など支援が必要だと思われる方の人数も調査しました。突き合わせてみると、福祉避難所の収容人数が少なくて全員が福祉避難所に入れるわけではないことがわかりました。もちろん、高齢者だからみんなが福祉避難所に行かなければならないというわけではありません。普段は自治会の役員として活動し、災害時に避難所のリーダーとして避難している方々をまとめていった高齢者の話は被災地でよく聞きます。家族と一緒に一般の避難所で過ごす方もいるでしょう。それでも、福祉避難所を指定するだけで止まってしまっている現状にたいして、高校生の視点で提起されている問題は社会でしっかりと検討したいですね。

地形の学習に専門性を発揮

高等専門学校の学生は高い専門性を持っています。ある高専では、学生が小中学生に3D地形模型の作り方を伝授しています。子どもたちはジグソーパズルを組み立てるような楽しい感覚で地形を学びながら模型を作ります。市内のすべての小中学校での実施を目指す壮大な計画です。西日本豪雨災害ではひどい土砂災害を経験した市内の子どもたちに、地形を知って土砂災害への備えを学んでもらおうという実践です。コロナ禍で学校を訪問しての対面授業ができなかった学校では、遠隔システムを使って授業を実施しました。高専生の専門性を使って地理の学習、防災での地域貢献、出前授業といった複数の要素を取り入れた面白い活動です。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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