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学校の防災教育 ~新しい学習指導要領の下で~ 【第2回】「学習指導要領」と「防災教育」

学習指導要領で防災教育はどう位置づけられている?

阪神・淡路大震災(1995)や東日本大震災(2011)といった未曽有の被害をもたらした大災害や毎年のように発生する水害、土砂災害が、人々の防災意識を変えようとしています。まだまだすべての人々に十分に理解されているとは言えませんが、「自分は災害には合わないから大丈夫」という根拠のない安心感から「大切なのはわかる」といった理解までには変化してきたようです。防災教育への意識も同じように徐々に高くなってきているようです。

私が参加していた「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」(2011年7月~2012年7月、文部科学省⦅以下、文科省⦆)では、委員から、防災教育の教科化の必要性が何度か指摘されました。残念ながら教科化は見送られましたが、文科省はその代わりに、学習指導要領 ※1 に自然災害や安全に関する記述を増やし、各教科や総合的な学習の時間で防災教育が実施できるような条件整備をしたと説明しています。
日本の学校教育は、文科省の学習指導要領に則って行われることになっています。教科書は検定を受けて合格すれば出版されます。ということは、教科書に沿って授業を行っていれば、しっかりした防災教育を実施できるというのが文科省の考えです。

先生の判断に任せっきり?

図は、小学校の学習指導要領で「安全」や「自然災害」といった表現が使われている部分を私が抜き出したものです。これを全部実施すればかなりの量の防災教育が可能だという文科省の主張は、あながち間違ってはいないでしょう。ただ、学ぶ順番はバラバラです。日本の学習指導要領は体系的であることを高く評価されていますが、防災に限って言えばまるでパッチワークのような学習になってしまいます。
また、教える先生に防災教育の意識がなければ、きちんとした防災教育はできないでしょう。理科で地震の種類やメカニズムを教えるときには、地震に対する備えや発生時の命の守り方(自助)、人々の助け合い(共助)、公的救助・支援の在り方(公助)なども取り上げて欲しいのですが、その判断は先生方ひとりひとりに委ねられています。誰もがこのような防災教育に学習の幅を広げるとは考えられません。
都道府県や市町村の教育委員会は、防災教育の研修を実施して先生方のスキルアップを図っていますが、対象はミドルリーダーや初任者、管理職などの限られた先生方です。全員を対象としているのではありません。また、これらの研修内容は学校運営、人権、教科指導、生徒指導など極めて多岐にわたり、防災教育はそのうちの1コマか2コマ程度です。お茶を濁しているだけだという評価は酷でしょうか。
ですから、学習指導要領に自然災害や安全などの記載があるからといって、それがそのまますべての学校で防災教育が十分に行われる保障になるわけではありません。実施の有無やその質は、校長や先生方の判断と意欲、努力にゆだねられているのです。

優れた実践のけん引役

では、防災教育は停滞しているのでしょうか。いいえ、先進的な学校のとりくみの結果、優れた教材や指導方法はどんどん開発されています。実践の蓄積によって、その広がりには目を見張るものがあります。素晴らしい実践をもっと多くの学校が共有し、防災教育がどんどん広がっていけばいいと願っているのですが、現段階では、すべての学校に届いているわけではありません。しかし、希望は捨てないでおきましょう。
防災教育をけん引してきた素晴らしいプロジェクトがあります。2つ紹介しましょう。

防災教育チャレンジプラン
 ホームページを見ると実践団体の報告がトップに出てきます。気になる団体をクリックすると実践の目的、内容、成果などが書かれており、製作物も検索できます。小学校、中学校、高校、大学、NPO、福祉施設、自主防災組織、行政、個人など様々な実践主体が多様なとりくみを展開しているので、自分のニーズに合った実践を見つけることが可能です。
 10月には交流フォーラム(中間報告会)、2月には最終の活動報告会が開かれます。チャレンジプランの実行委員や過去の団体などからのアドバイスがもらえ、実践に必要な経費も審査の上、提供されます。報告会への参加費用も支給されます。
 何より、実行委員会が、参加団体相互に実践内容を「パクる」ことを促進しており、団体間の交流が盛んです。防災教育のトップレベルの実践を長年育んできた功績は極めて大きいと言えます。

防災未来賞ぼうさい甲子園
 兵庫県、毎日新聞社、ひょうご震災記念21世紀研究機構が主催して、防災教育の優れた実践を小学校、中学校、高校、大学に分けて表彰しています。2020年からは特別支援学校の部もできました。毎年1月に兵庫県で表彰式と発表会、交流ワークショップが行われます。事務局のNPO法人さくらネットのホームページで応募要項や受賞校一覧、表彰式・発表会の動画、記録誌・記念誌などを見ることができます。実践事例を知りたい人は、発表会の動画や記録誌がとても参考になります。
※1「学習指導要領」 文科省が告示する。初等教育と中等教育の教育課程の基準。小学校、中学校、義務教育学校(小中一貫校)、中等教育学校(中高一貫校)、高等学校、特別支援学校が教える内容を決めている。公立、私立両方に適用されるが、実際は公立に対する影響力が大きい。(Wikipedia)

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この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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