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安全そうな建物にも、リスクが!? 知ってしっかり備えておきたい、マンションの防災

建築基準を満たしているマンションなら、大きな地震が発生しても建物が倒壊する心配もなく、高層階であれば洪水が発生しても浸水する心配もなく、災害時にも安心できると思うかも知れません。「災害に強い」という理由で、マンションに住むことを選んだ方もあるでしょう。
しかし、マンションも決して安全な場所ではありません。倒壊などのリスクは低くても、大きな災害が発生した時にはマンションならではの被害も考えられます。倒壊や損壊などがないために、避難所に入ることもできずに、在宅避難を続ける必要もでてきます。
何も備えなければ、災害時に多くのリスクが潜んでいることは、マンションも同じです。
各ご家庭で備えておくことはもちろん、マンション全体で日頃から災害時を考えて備えておくことが必要です。モノの備えだけでなく、住民同士の連携や訓練なども大切な備えの一つです。
大きな災害が発生した時に、マンションではどのような被害が発生しやすいのか、その可能性を知って、日頃から住民の方たちで話し合うなど、しっかり備えておきましょう。共同住宅では誰かが率先しなければいけません。あなた自身が、率先して防災活動を行う人になってください。

大地震が発生したら、上層階ほど大きく揺れる

東日本大震災などのこれまでに発生した地震でも、オフィスビルなどで、大きな揺れ幅で長時間揺れる体験をしたことがある方もいらっしゃるかも知れません。「長周期地震動」と言われる揺れです。長周期地震動は、規模の大きな地震が、地面から比較的浅いところが震源地となって発生した場合に起こるとされています。数百キロ離れたような遠くの地域で発生した地震でも、高層の建物などは地震の揺れに共振して、大きく揺れることがあります。高層マンションも、例外ではありません。

建物が倒壊するなどの被害はなくても、ゆっくりとした揺れが長時間続くことで、建物の中を通る排水管などが破損することもあります。すると、トイレなどの水回りが使用できなくなります。
電気系統が破損すれば、地域全体では停電が発生していなくても、マンションだけが停電することもあります。停電が発生すれば、エレベーターが停止し、閉じ込められる可能性もあります。オートロックなどが使えなくなったり、給水を電動ポンプで行っている場合には断水も発生します。

さらに、各住居でも固定されていない家具や電化製品が移動したり、倒れたりし、室内にいる人が大怪我を負うこともあります。ドアや窓枠が変形したり、窓ガラスが割れることもあります。共用の廊下などで破損の被害が出ることもあります。2011年に発生した東日本大震災では、東京都内のマンションの3〜5階の23.8%、6〜10階の31.9%、11階以上では47.2%で家具類の転倒や落下、移動が発生したというデータ(東京消防庁調べ)も出されています。
少なくとも、各部屋の家具や家電は、しっかりと固定しておきましょう。食器棚などは、耐震ラッチを取り付けて、地震の際に中のものが飛び出さないようにしておく必要があります。窓ガラスには、飛散防止フィルムを貼っておきましょう。

首都直下型地震や南海トラフ地震のような地震がお住まいの地域で発生すれば、長周期地震動以上に大きな被害が出る可能性があることは、言うまでもありません。
少しでも被害を軽くできるように、出来る限りの対策をしておくことが大切です。

地震が発生した時には、エレベーターは使わないように

地震が発生した時には、最初の揺れでは問題なく動いていたとしても、しばらくはエレベーターを使ってはいけません。余震が発生した時に、止まってしまう可能性もあるためです。
もちろん、一度目の大きな地震で停止し、偶然エレベーターに乗り合わせていれば、閉じ込められてしまう可能性もあります。
2013年6月に発生した、大阪北部地震でも、最大震度6弱だった大阪府や、最大震度5弱だった兵庫県、最大震度5強だった京都府などを中心に、最大震度3だった和歌山県や、最大震度4だった愛知県・岐阜県などの広範囲で、あわせて約6万3,000台のエレベーターが停止しました。近畿地方では、そのうち346台で閉じ込めも発生しています。

エレベーターに損傷がなくても、震度4以上の強い揺れを感知したときには、エレベーターは停止します。エレベーターが停止してしまった時には、技術者の点検を受けるまでは、復帰しないようになっています。

もしもエレベーターが停止し、閉じ込められてしまったとしても、エレベーターが落下してしまうことはありません。エレベーターの多くは3本のロープでカゴを支える構造になっていて、2本のロープが切れたとしても、満員状態のカゴを支えることができます。すべてのロープが切れてしまっても、安全装置がカゴをロックします。
もしもエレベーターに閉じ込められたとしても、パニックにならずに落ち着いて対応しましょう。

もしもエレベーターに乗っている時に、地震が発生したら

もしもエレベーターに乗っているときに地震が発生したら、「地震時管制運転装置」が備えられている多くのエレベーターでは、地震を感知すると自動で最寄りの階まで進んで停止して、扉が開きます。停電したとしても、最寄りの階まで移動して、そこで止まるようになっています。

しかし、この装置が備えられていないエレベーターもあります。
揺れを感じたら、まずはすべての階のボタンを押して、最初に停止した階で降りるようにしましょう。
最寄り階に到着して扉が開いても、一定の時間が経つと扉は閉まるようになっています。扉が閉まってもエレベーターの中からは開けることができますが、外からは開けることができません。エレベーターの中に忘れ物などがないように、落ち着いて速やかにエレベーターから出るようにしましょう。

もしも扉が開かずに閉じ込められてしまったら、開閉・階数ボタンの近くに設置されている、外部と連絡が取れるインターホンで連絡を取り、救助を待ちましょう。停電していても、インターホンはつながります。ドアをこじ開けようとしたり、天井を壊そうとして、無理に脱出しようとしてはいけません。
大阪北部地震でエレベーターの閉じ込めが発生した時には、その約87%が3時間以内に救出されています。パニックを起こさずに、冷静に、エレベーターに乗り合わせた人と励ましながら救出を待ちましょう。

ただし、地震の被害が大きく、公共交通機関が停止していたり、道路が通行止めや交通渋滞などを起こしている場合には、3時間を超えても技術者が到着できないこともあります。電話回線が混雑(輻輳)して、技術者と連絡が取れるまでに時間がかかることもあります。

マンションの管理組合などと話し合って、エレベーターの中に簡易トイレや水、懐中電灯や防寒シート、携帯ラジオなどを入れた「備蓄ボックス」を備えておくと、災害時にも余裕を持って救助を待てるはずです。備えておきましょう。

また、もしもマンションからの避難が必要になったとしても、エレベーターを使ってはいけないことは、言うまでもありません。

避難はしごは使えますか?

火災が発生して出口がふさがれたり、地震の揺れで玄関ドアがゆがむなどして開かなくなった時にも階下に降りられるように、マンションのベランダには「避難はしご」が設置されています。
避難はしごは、避難ハッチと言われる避難用の昇降口に取り付けられたはしごで、普段は人が載っても問題ないようなフタが閉められています。すべての部屋に必ずあるわけではなく、ベランダの間にある仕切りを破って、隣のベランダの避難はしごを利用しなければいけない場合もあります。

11階以上の部屋には、スプリンクラーの設置などの火災対策がされていて、避難はしごがないことが多いですが、2階から10階までの部屋では、火災などが発生した時には避難はしごを使って避難することになります。
ただし、2階の場合は避難はしごで1階に降りることができますが、それ以上の階では、いったんすぐ下の階に降りて、そこからより避難しやすい場所に移動することを前提に考えられています。

避難はしごの場所や使い方とともに、マンションの中での避難経路も平時から確認しておきましょう。
避難はしごが設置されているお部屋に住んでいても、日頃はほとんど気にすることもないかも知れませんが、「いざという時に使えない」のは命の危険に関わってくることです。必要な時にしっかりと使えるように、劣化してフタが開かなくなっていないか、はしごが壊れていないかなど、定期的な点検・訓練も必要です。
また、ベランダで植物を育てていたり、物を置いている方は、避難はしごのフタをふさいでしまっていないか、お隣との仕切りをふさいでいないかも確認し、ベランダの整理をしておきましょう。

<避難はしごの使い方>
避難はしごの使い方は、フタなどに書いてありますが、緊急の時には落ち着いて使用方法を読んでいることもできないでしょう。だいたいの流れを知っておきましょう。

1、 まずは、避難はしごの蓋を開けます。
最初はロックがかかっているため、5センチほどしか開きません。フタの表面にシールなどでロックの場所は目印が付けられているので、5センチほど開けたらロックを外して、フタを全開にしましょう。フタは全開にすると、固定されるようになっています。焦らずに、フタがしっかりと固定されていることを確認しましょう。しっかりと固定されていないままだと、はしごで降りる際にフタが落ちて手足をはさむことがあります。

2、 下に人がいないことを確認して、はしごを下ろしましょう。
はしごは、ストッパーで固定されています。下の階に人がいないことを確認して、ストッパーを外しましょう。ストッパーを外すと、自動ではしごは降りて行きます。はしごを下ろすときには、目視で階下に人はいないと思っても、念のために「はしごを降ろします」など声をかけて注意を促すようにしてください。

3、 両手で持ち手をつかんで、一段ずつ慎重に降りましょう。
はしごが階下まで伸びたら、両手で持ち手をつかみながら一段ずつ慎重に降りましょう。降りる時は両サイドではなく、ステップ部分を両手でつかむことがポイントです。
また、避難するときには運動靴のように脱げにくい靴が適しています。ベランダには、サンダルなどを置いてあるご家庭も多いかもしれませんが、運動靴もベランダか、ベランダに接した室内に備えておきましょう。
避難するときには非常用持ち出し袋なども持っていきたいところですが、リュックサックを背負ったままだと引っかかってしまうこともあります。荷物は、先に下の人に手渡したり、降りる前に下に落としておくなどしましょう。

マンションの人すべては避難所に入れない!?

鉄筋コンクリート造や重量鉄骨造のマンションは、1981年6月以降に新耐震基準を満たして建てられたものであれば、地震が発生しても倒壊する可能性は低いでしょう。水害が発生して1〜2階の低層階が浸水したり、火災などが発生しない限りは、避難所に行くよりも在宅避難生活を送った方が安全に過ごせる場合が少なくありません。
そもそも避難所にも定員があり、大規模マンションに住む人全員を受け入れることも、大きな災害が発生した時には困難な状況になります。

マンションに暮らしている人は、基本的には避難所へ行かずに、自宅で避難生活を送れるだけの備えをしておくことが必要なのです。

ただし、倒壊はしなくても設備が破損したり、長期的な停電や断水などは発生します。排水管が破損すれば、トイレやお風呂は使えなくなります。お風呂の残り湯などの排水もできません。停電が発生すれば、エレベーターも止まり、水や食料の補充をするのにもすべて階段を使用しなければいけません。

給水車が来たとしても、重い水を持って階段をなん階も上がることは、若い世代だとしても大変なことです。ゴミ袋を二重にして水を入れて、しっかりと口をしばってリュックサックに入れると、運びやすくはなりますが、それも繰り返すのには体力的な限界があります。
特に高層階にお住まいの方は、水の備蓄はとても重要です。水の備蓄量は、1人1日3Lが目安です。

避難所での食料の配給は、避難所で生活している人だけに限られたものではありませんが、災害が発生してから数日〜1週間以上にわたって避難所にいる人たちにも物資がゆきわたらないという現実もあります。在宅避難をしながら、階段を上り下りして避難所まで食料の配給を受けに行くというのは、やはり最終手段と考えて、十分な備蓄をしておくことが必要です。

最低でも1週間分の水や食料を備えておきましょう。

トイレの備蓄・ゴミのニオイ対策も

マンションのトイレが使えなくなるのは、大きな地震が発生した時ばかりではありません。2019年に発生した台風19号では、神奈川県川崎市にある47階建てのタワーマンションでは、地下にあった配電盤が浸水で壊れ、排水ポンプも動かせず、電気も水道もエレベーターも長期間にわたって使えない状況になりました。

多くのマンションでは、スペースを有効活用するために、配電盤は地上ではなく、地下に配置されています。地下に完全に水が入らないように密閉性を高めるのは簡単なことではなく、台風や豪雨などで浸水して、ライフラインが止まってしまうこともあるのです。

排水設備が機能していないところにトイレの水を流すと、下水から水があふれたり、下の階のトイレが逆流することになります。また、地震で排水管が破損している場合には、上の階で流したトイレの水が下の階であふれるという事態にもなります。

大きな台風や地震が発生した時には、トイレの水は流せない、トイレは使えないと考えておきましょう。
トイレの備蓄は、食糧や水の備蓄と同じくらい、とても大切なのです。

災害用のトイレには、1回使い切りの「携帯トイレ」と、複数回使用できる「簡易トイレ」があります。
携帯トイレは、洋式便座などに袋を二重に設置して吸収パットや凝固剤を入れた中に用を足して排泄物を固めて処理するものです。ドライブやキャンプなどでも使いやすい、小さな包装になっているタイプのものもあります。
簡易トイレは、小型で持ち運びのできる箱型トイレで、これにも給水パットや凝固剤を入れて排泄物を固めて処理します。

トイレの備蓄の量の目安は、1人1日最低5回ほどトイレを使用するものと考えて、1週間から10日分を、ご家族の人数分です。
3人家族と仮定して、1日5回×3人×10日分=150回分のトイレの備蓄を備えておく必要があります。

また、地震・洪水ともに、道路が損壊するなどの被害が出て、復旧までに何日もかかることになった場合には、ゴミの回収なども行われず、数日にわたって自宅にゴミを保管しなければいけない事態になることもあります。
ゴミを自宅で保管する場合に、一番気になるのが“ニオイ”ではないでしょうか。

普通のビニール袋は人の目では分からないくらいの小さな穴があり、わずかながら通気性があります。それゆえに、ニオイが漏れ出てしまうこともあります。防臭機能のあるゴミ袋を備えておくと良いでしょう。

災害時には、住民同士の「共助」が大きな力に

マンションには建物の特性などからいくつかのリスクもありますが、利点もあります。マンションの大きな利点として、隣近所が近いということがあげられます。大規模なマンションであれば、マンション全体で一つの街のようでもあります。

災害への備えは、「自助」「共助」「公助」だとたびたび伝えられています。
自分自身と一緒に暮らす家族の命を守り生活を続けられるような備えをしておく(自助)ことはもちろんですが、マンションの住民同士での助け合い(共助)が災害時には大きな力となります。

あなた自身が災害時にケガをして動けなくなったときに、助けてもらうことになるかもしれません。

もしもお隣で火災が起きれば、マンション内の人たちで協力して初期消火をしなければいけないかもしれません。

災害時には、助ける側にも、助けてもらう側にもなり得ます。
ライフスタイルもそれぞれな人たちが暮らすマンションでは、住民の交流があまりないところも増えているかもしれません。
それでも、日々、あいさつからでもマンションの住民の方で交流をはかっていきましょう。
地震などの災害が発生した時にも、お互いに声をかけあえれば、それが生きる力につながってくることもあるでしょう。

マンション住民の方たちで、「防災委員会」を立ち上げて災害時の行動を話し合ったり、「マンションの防災マニュアル」を作成したり、防災訓練なども実施できれば、いざというときにも安心できる住環境が整えられるはずです。

(参考資料)
東京都防災 マンション防災リーフレット

三菱電機ボルソリューションズ株式会社 エレベーター内で地震に遭遇したらどう対応する?

東京消防庁 避難はしごの使用方法を知ろう!

東京新聞 水道、トイレ、エレベーターが使えない・・・武蔵小杉タワーマンションの教訓

経済産業省 トイレ備蓄、忘れていませんか?

クロリン化成株式会社

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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