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土砂災害が発生しやすい!?日本の国土の特徴とこれまでの土砂災害

6月1日から10月31日までは、「出水期」です。
出水期とは、梅雨前線などの影響による集中豪雨や、台風などによる洪水が起きやすい時期のことを言います。
土砂災害は地震などによっても発生しますが、斜面の地表に近い部分が水の浸透などで緩んで突然崩れ落ちる「がけ崩れ」や、斜面などに溜まった土石が水と混ざってどろどろになり一気に下流へと流れ出る「土石流」などは、出水期の豪雨や台風などによる大雨が引き金になって発生するケースが多く見られます。
自然を大きく破壊するだけでなく、時に私たちが日常生活を営む場所や多くの人の命までも奪っていく土砂災害が発生しやすい日本の国土の特徴や、これまでに発生した土砂災害について知り、出水期に備えましょう。
もちろん、出水期でない時期でも、地震などによって土砂災害が誘発されることもあります。私たちは常に土砂災害の危険性と隣り合わせで日々を送っているのです。

日本列島の約7割は山地

市街地で生活していると、山地を身近に感じることはあまりないかも知れません。窓から見た遠くの景色に山が見えるという程度や、旅行などで山地に出かける方もあるでしょう。

「山は市街地の生活からは遠く離れているもの」
それは思い込みに近いかも知れません。
日本の国土は、約7割が山地なのです。
しかも、地質はそれほど硬いものではありません。そして、「断層」と言われる、地層などの大地がずれた場所が日本列島には数多くあり、そうした断層が何度もずれ動いた結果として両側に違う岩が並んだような、異なる地層の境界線になっている断層「構造線」があります。この構造線には関東から九州に伸びる中央構造線と、東北日本と西南日本に分けるように糸魚川—静岡構造線があります。
活火山も108を数え、全世界の約1割が日本に集中しています。
大きな地震の発生も多く、マグニチュード8.0以上の大地震は、世界の約2割が日本で発生しています。
このように地震がおきる可能性が高い日本では、土砂災害も比例して多くなります。

大雨による土砂災害についても考えてみましょう。
日本列島は高さ2,000mから3,000m級の山脈が縦断するように走っています。そのため、山地の地形は傾斜が急でけわしく、山の中を流れる河川も急勾配で、長さも短く、流域面積も小さなものが多いことも特徴です。大雨が降ると、急激に河川を流れる水の量が増え、洪水などの災害も起こりやすくなっています。
また、洪水時の河川水位よりも低地になる、「沖積平野」と言われる河川のたい積作用によって作られた平野を中心に人口が集中し、高度な土地利用が行われていることや、森林や傾斜地の周辺で都市化が進んでいることもあり、土砂災害のリスクが高くなっている傾向にあります。

日本の年平均降水量は世界の2倍

温帯のアジアの東端に位置する日本には、春夏秋冬の四季があります。四季の色々な気象現象の一つとして、台風や大雨、大雪などが発生します。
降水量について世界と比較すると、1位はインドネシア、2位はフィリピン、日本は次いで3位です。日本は世界で3番目の多雨国ということになります。

世界の平均値と比較すると、世界各国の年平均降水量が880mmに対し、日本の年平均降水量は1,718mm。世界各国の平均のおよそ2倍もの雨が降っているということなのです。
また、日本の降水量は季節ごとの変動が大きく、梅雨の間と台風時に集中しています。年間で一番雨の多い9月と、雨の少ない12月を比較すると、その差は5倍にもなります。

こうした、日本の国土の地形や地震の多さ、雨の多さなどの要因が重なり、日本は土砂災害が発生するリスクがとても高いのです。

2021年の土砂災害発生状況

日本での土砂災害は、国土交通省が集計を開始した1982年から、毎年平均して1,000件前後発生しています。
発生件数が最も多かった年は2018年の3,459件。この年は西日本を中心に中部地方などに被害を出した平成30年7月豪雨や、北海道胆振東部地震などの災害が相次いだことが原因となっています。ついで2004年の2,537件、1982年の2,007件、2019年などが多くの土砂災害が発生した年になっています。
また、1982年、2004年、2019年は台風に伴う土砂災害が多く発生しています。

2021年の一年間に発生した土砂災害に関して、国土交通省砂防部から統計(国土交通省 令和3年の土砂災害)が報告されています。
2021年3月1日から12月の1年間に発生した土砂災害は、全国で972件。
国土交通省での土砂災害発生件数の統計が始まってから、19番目に土砂災害の発生が多い年となりました。
土砂災害が発生しなかった県は、岩手県、茨城県、埼玉県、山梨県、香川県の5県のみ。42都道府県で発生しています。
発生件数の多かった都道府県を見ると、最も多かったのが、広島県の129件。ついで神奈川県の88件。鹿児島県でも85件発生しています。また、長野県、鳥取県、佐賀県でも、それぞれ60件近い土砂災害が発生しました。

2021年に土砂災害が発生しなかった5県にも、土砂災害警戒区域などはあり、過去には土砂災害が発生しています。どこの地域でも、土砂災害が発生する可能性はあるのです。

発生した土砂災害972件を種類別に見ると、もっとも多いのが、がけ崩れで735件。福岡県八女市などで発生しました。
ついで多いのが、土石流などで、160件。7月に発生した静岡県熱海市伊豆山の土石流は、まだ多くの人の記憶に新しいのではないでしょうか。
地すべりも、長野県長野市や熊本県天草市をはじめ、77件発生しています。

発生時期の特徴としては、過去5年間では7月が突出して多かったのに対して、2021年は7月に発生した土砂災害は平均の1/3程度と少なく、変わって8月は過去5年間の平均の約3倍、408件の土砂災害が発生しました。これは、8月11日からの前線に伴う大雨によるもの。長崎県雲仙市、熊本県天草市、福岡県八女市、広島県広島市、長野県岡谷市と、この大雨によって、九州、山陽、関東甲信越と日本の広い範囲で土砂災害が発生しました。

10年単位で土砂災害発生件数の推移を見ると約1.3倍

土砂災害の発生に関して、国土交通省が統計を取り始めたのは、今から40年前の1982年。統計を取り始めてから現在まで、10年単位での発生件数の推移についても観察しています。
土砂災害発生の年間平均件数が1,000件を超えたのは、20年前の2002年から2011年までの10年間の平均からです。

1982年から1991年までの10年間は、一年あたり平均897件発生していました。
次の10年間、1992年から2001年までの間には、阪神淡路大震災や平成5年8月豪雨、平成11年6月豪雨もありましたが、それでも一年あたりの平均は930件に抑えられていました。

次の10年間の中で、2004年には新潟中越地震や平成16年台風第23号が発生しており、この年には国土交通省が統計を取りだしてから初めて、土砂災害の発生件数が2,500件を超えました。2004年を含む、2002年から2011年までの10年間の年平均1,150件の土砂災害の発生が記録されています。

近年10年間では、平成30年7月豪雨や北海道胆振東部地震、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨など、多くの土砂災害を引き起こした台風や豪雨、地震などが発生しています。2021年1年間だけで見ると、土砂災害の発生件数は972件と減少しているようにも見えますが、10年間の平均で見ると1,450件で、前の10年間の約1.3倍に増えています。

土砂災害発生件数の推移を10年単位で見ていくと、増加の一途をたどっているのです。

土砂災害の被害を最小限にするために

台風や豪雨、地震などにともなって、日本各地で発生している土砂災害。被害を最小限にするために、様々な対策も行われています。
例えば、「砂防えん堤(砂防ダム)」と言われる、土石流など上流から流れ出る土砂を受け止め、溜まった土砂を少しずつ流すことにより下流に流れる土砂の量を調節する施設の建設。土砂が砂防えん堤に溜まることで、川の勾配を緩やかにし、川底や川岸が削られるのを防ぐとともに、土石流の破壊力を弱めることができます。
2021年中に発生した土砂災害においても、長野県木曽郡や広島県広島市、岐阜県中津川市など、多くの地域で、砂防えん堤が土砂をとらえて人家や道路などの被害を未然に防止し、被害を最小限に抑えることに繋がっています。

川の流路を広げることで、大量に流れてくる土砂を一時的に受け止める「遊砂地」も、静岡県富士宮市などで、土砂災害の被害を小さくすることに役立っています。

共助による事前の避難で、人的被害を免れた事例もあります。
平成30年7月豪雨で20人が亡くなった広島県広島市内では、令和3年8月の大雨では、西区田方地区や安佐南区などで事前に避難した人が多く、人的被害は出ませんでした。
長野県茅野市では、9月に茅野市下馬沢川で複数の民家が巻き揉まれる土石流が発生しましたが、地域では例年避難訓練を実施しており防災への意識が高かったことにくわえ、避難指示発令後に防災無線による避難呼びかけだけでなく、消防団員などが住民に直接声をかけて回り、住民の多くが事前に避難したことで、人的被害を免れました。

地形、気候ともに、土砂災害が発生するリスクの高い日本。
そうしたことを知った上で、早めの避難を心がけることで、少なくとも命を守ることはできます。


<参考資料>
内閣府 平成17年度版防災白書

国土交通省 水害対策を考える

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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