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海・川で起きる水の事故【川編】

山から街を流れ、海に流れ出る川は、自然との一体感を味わえる身近なレジャーとしても人気です。川に入って遊んだり、魚釣りをするだけでなく、河原でバーベキューをしたりと、多様な楽しみ方ができる川。夏休み期間などには、ご家族で楽しもうと計画している方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、防災の視点で見てみると、6月~10月末までは「出水期」と言われ、梅雨の長雨や集中豪雨、台風などから川の水が増水しやすく、注意が必要な時期です。こうした出水期に夏期(7月~8月)も含まれていることを知った上で、悲しい事故が起こらないように、安全への注意をしっかりとはらいながら川のレジャーを楽しむようにしましょう。

川の事故での死者・行方不明者は半数以上が子ども

警視庁生活安全局生活安全企画課が発表している、「令和2年(2020年)夏期に置ける水難の概況」によると、2020年に発生した水難事故で、一番多かった場所は海で、約54%。河川は2番目の約36%でした。しかし、中学生以下の子どもの水難での死者・行方不明者ということに限って見ていくと、河川が約56%、海が約25%となり、発生場所が海と川とで逆転します。また、水遊び中が約56%ともっとも多く、ついで水泳中の約25%。こうしたデータからも、浅瀬で水遊びをしているだけでも、決して油断してはいけないことが見て取れます。

また、河川財団子どもの水辺サポートセンターと国土交通省水管理保安局水源部が2003年~2013年までの水難事故をまとめた研究によると、子どもの水難事故の事例では、幼児や小学生では一人で遊んでいて岸から転落したり、流れや深みにはまって溺れたり、落としたボールを拾おうとして転落したケースなどが多く発生しており、中学生くらいの年齢になると、友達同士で増水時に川遊びをして溺れたり、川の対岸に渡ったり、急な増水で中州に取り残されてしまったり、えん堤や滝で飛び込みをして溺れたケースが目立つようになります。
川は、生活圏から比較的近いところにあるからこそ、こうした、子どもだけで遊びに行って事故に遭うということが起こってきます。まずは、子どもだけで川に行かせないことも大切なことです。

川の危険な場所

川には水の流れがあります。その流れが、地形や水の量などによって、さらに複雑で大きな水圧となります。音もなく、見た目には静かな流れに見えていても、川の中では大きな水圧となって、大人でも腰ほどの深さまで浸かれば、流れに足を取られてしまう可能性があります。
特に、川がカーブしている場所の多くは、外側に強く速い流れが起こっているとともに、水深が深くなっていて、深みにはまりやすい場所です。
また、浅瀬でも、小さな石が川底に広がっているようなところでは、足元がとても不安定になっていて、水圧も強く、油断できません。
逆に、流れの遅い、浅い場所は安全なのかというと、そうとも限りません。水の流れが緩やかな場所では、岩に珪藻が生えて、滑りやすくなっています。ビーチサンダルなどを履いて川に入っていると、こうした場所では脱げてしまったり、転倒してけがをすることにつながり、危険です。

岩や流木が危険な状況を引き起こすことも

川の中の岩や流木などが危険な状況を引き起こす場合もあります。
川の中流域や下流域では目立ったものはありませんが、上流域では川の中に岩があるところもよくあります。上流から下流に向かって流れる川の水は、岩にぶつかると、岩の左右に分かれる水流を作ります。こうして、岩の横に逃げる水流はスピードが速くなり、岩の周辺の水底を削ります。つまり、岩の周辺は、急に水深が深くなっていることがあるということです。
見えている岩だけでなく、水面の下に隠れている岩にも注意が必要です。川で泳いでいるときに、気づかずにぶつかって大きな怪我をする危険性があります。また、こうした岩の後ろには、上流から下流に向かっての流れだけでなく、下流から上流に向かっての流れも発生しています。水面下に隠れている岩の近くでは、こうした流れに翻弄されたり、水圧で岩に強く押し付けられるようなことも起こります。

岩の他にも、川の底にある流木などにも注意が必要です。川の流れの中には、倒れ込んだ木やコンクリートブロックなど、水以外を通さない障害物が潜んでいる事があります。こうした障害物のことを「ストレーナー」と言います。
川底のストレーナーに足を挟まれてしまうと、強い水圧で水中に体が押し込まれてしまい、水面に顔を出したり、一人で脱出することも難しくなります。こうした事故は、歩いて渡れそうな浅瀬で多く発生しています。

人工構造物の周辺も注意

川には様々な人工構造物もあります。
橋脚や、堤防などの侵食を防ぐために設置されている「水制」と言われるコンクリートブロックなどの周辺では複雑な流れが発生していたり、ストレーナーとなって挟まれて脱出できなくなる危険性があります。
川の激しい流れによって川底が削られたり、侵食されることを防ぐために、川の底に横断して設けられる床固め工(床止め工)と言われるコンクリートブロックのようなものも、ストレーナーとなって隙間に足を挟まれたり、強い流れに引き込まれることがあります。
こうした川の人工構造物の中でも、最も注意が必要なのは、えん堤です。
えん堤とは、川の流れを緩やかにしたり、釣り場を作ったり、川の水を他に引いたりするための構造物です。見た目には、川の浅瀬に人工的に段差が作られているようですが、小さな段差の下には、滝壺のような流れが生まれます。水深が浅くても、激しい逆流(バックウォッシュ)があり、そこにはまってしまうと、延々とその場で水に巻かれ続けることになり、救助も難しくなります。
えん堤の上は浅瀬で流れも緩やかに見えますが、えん堤の上を歩いてはいけません。

天候の変化やダムの放流などによる急な川の増水に注意を

海のレジャーに出かける時と同様に、川のレジャーに出かける前にも気象情報の確認が必要です。海では主に、落雷や風、波による水難事故を防止するために気象情報が重要な役割を担いますが、川では主に、落雷と急な増水による水難事故を防ぐために、気象情報を確認する必要があります。(落雷にとる注意は「海・川で起きる水の事故【海編】」を参照ください)
河原や中洲では、急な雨による増水によって、水没する可能性があります。特に中洲では、増水すると逃げ場がなくなり、取り残されてしまいます。また、短時間でもまとまった量の雨が降ることで、川幅は狭いほど、急に水位が上がり、流れも速くなる危険性があります。

さらに、レジャーに出かける場所だけでなく、川の上流域の気象情報も確認しましょう。川は上流から下流へと流れます。遊んでいる場所が晴れていても、上流で雨が降れば、少し時間をおいて下流域も増水する可能性があります。
上流の空に黒い雲が見えた時や雷の音が聞こえた時、落ち葉や流木などが流れてきたり水が濁り始めた時や、雨が降り始めた時には、すぐに川から上がり、建物の中や車の中などの安全な場所に避難しましょう。

上流にダムがある場合には、天候にかかわらず、水量や水の需要などに応じてダムから水が放流され、急激に増水することがあります。ダムで放流される場合には、約1時間前にサイレンやスピーカー、警報車などによって、警報が出されます。こうした警報を聞いたら、すぐに川から上がるようにしましょう。
川に関連する気象情報やダムの放流情報は、国土交通省のウェブサイト「川の防災情報」からも確認することができます。

もしも水難事故にあったら

事前の気象情報やダムの放流情報を確認していたとしても、期せずして水難事故にあってしまうことはあります。もしも水難事故にあってしまった場合には、何よりもまずは、パニックを起こさずに、落ち着いて救助を待つことが大切です。
中州に取り残されてしまった時には、泳いででも河原に戻りたくなるかもしれませんが、中州が水没するほどに川が増水している時には、流れも速くなっていて、無理に泳げば流されてしまいます。無理に動かずに、警察(110番)と消防(119番)に連絡し、救助を待ちましょう。
その際、水に濡れた上着や靴などは、できる限り脱ぐようにしましょう。濡れた衣服などは、体温を奪い、低体温症を引き起こします。体温が35度以下になる低体温症は、重度になると昏睡状態に陥り、命に関わる事態になります。

溺れてしまった場合にも、まずは焦らずに、冷静に救助を待ちます。救助を待つときには、海で溺れた時と同様に「浮いて待つ」ことが基本です。可能であれば岩などに頭をぶつけないように頭を上流に向けて水面に平行に仰向けになり、手足を広げて体をそらします。力を抜いて顎を少し上げると、呼吸がしやすくなります。ただし、流れのある川では、海のように背浮きの体勢を維持することは難しいかもしれません。ライフジャケットを着用することで、浮きやすくなります。川に入るときには、ライフジャケットを着用するようにしましょう。

川で溺れている人を見かけたら

もしも川で溺れている人を見かけても、すぐに飛び込んで助けに向かってはいけません。溺れている人はパニック状態になっていることが多く、引きずられて助けようとした人までも溺れてしまう事態になりかねません。
まずは、溺れている人に声をかけてできるだけ落ちかせるようにしつつ、消防と警察に連絡し、救助を要請しましょう。その上で、周りにいる人に声をかけて協力してもらい、足しける方法がないか考えます。

もしもロープを持っていたら、利き手の反対の手にしっかりとロープを持ち、振り子のように振って、溺れている人の頭を超えるようにロープを投げます。溺れている人にロープをもたせたら、頭よりも川上側にロープが来るようにさせ、ロープを握っている両手を胸の位置まで持っていくように伝え、ロープを引き寄せます。
上着やズボン、ベルトなどをつなげて、ロープの代わりにする方法もあります。
ロープなどがない場合には、何人かで前後交互に並び、手首をしっかりと握り合って、「ヒューマンチェーン」作って救助に向かいます。

クーラーボックスなどは空にして、溺れている人に渡すと、消防や警察などの救助を待つ間、クーラーボックスの浮力をかりて、浮いて待ちやすくなります。
溺れている人を川岸まで寄せて、無事に救助することができたら、怪我はないか、水を飲みすぎていないか、寒気はないかなど、病状の確認をし、必要に応じて心肺蘇生法などを施します。

川での水難事故に関して、注意すべきことや知っておくべき危険などを挙げてきましたが、この他にも子どもだけで川に行かない、行かせないことや、飲酒をして川に入らないこと、体調のすぐれない時には川に入らないなど、基本的なこともしっかりと守るようにしましょう。
川の危険性をしっかりと知り、細心の注意をはらいながら遊ぶことで、安全に楽しむことができれば、安心して川の魅力を存分に味わえるはずです。


この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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