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海・川で起きる水の事故【海編】

新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、三密を避けられるとして、海や川、山などアウトドアでのレジャーの人気が高まっています。特に夏は川や海などに出かける機会も増える季節でもあります。しかし、自然の中だからこその危険もあります。
川や海で起こりやすい事故や災害のリスクと対処法を知った上で、レジャーを楽しみましょう。

「大人だから」と安心してはいけない水による災難

警視庁生活安全局生活安全企画課が発表している、「令和2年(2020年)夏期に置ける水難の概況」によると、過去5年間(2015年〜2020年)の夏期(7月〜8月の2か月間)における水難の発生状況は、発生件数、水難者数ともに平成28年(2016年)を境に減少していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった最初の夏となった2020年には水難の発生件数は前年対比で43件増の504件、水難者は前年対比で22名増加の616人と増加に転じています。
都道府県別の水難発生状況では、一番多いのは千葉県、ついで静岡県、愛知県、沖縄県となっています。

注目すべきなのは、年齢層別の水難者数です。水難者数616人のうち、中学生以下の子どもは101人で全体の約16%程度だということです。
水の事故というと、子どもが遊びに夢中になるうちに、いつの間にか水深の深いところに行ってしまって溺れるようなイメージがある方も多いかも知れませんが、実際には水の事故にあった約84%が高校生以上の大人なのです。
さらに、子どもの水難者数101名のうち死者・行方不明者は16人で約16%、高校生以上の大人の水難者数515人のうち死者・行方不明者は246人で、大人になると水難にあった人の半数近く、約48%が死亡事故に至っているのです。
子どもを救助して大人が命を落としてしまったというケースもありますが、水による事故は決して「大人だから大丈夫」と油断してはいけません。

水による事故の多くは海で

警視庁生活安全局生活安全企画課が発表している、「令和2年(2020年)夏期に置ける水難の概況」から、水による事故は、どのような場所で、どのようなことをしている時に起こるのかも見て取ることができます。水難が発生した場所別に見ると、一番多いのは海です。2020年の水難者半数以上、約54%が海で発生しています。ついで多いのが河川で、35.9%。さらに、湖沼池、用水路(ともに4.7%)、プール(0.6%)と続きます。
この発生割合は、2020年に限った事ではなく、ほぼ毎年、夏期には海と川での水難が他の場所よりも突出して多く発生しているのです。
どのようなことをしている時に、水による事故が発生しているのでしょう。水難者数を行為別に見てみると、一番多いのが水遊びで約24%。ついで魚とり・釣り(約21%)、水泳(約14%)、作業中(4.2%)、通行中(5.4%)、ボート遊びやシュノーケリングなどの様々なマリンスポーツ中の発生も見られますが、水難救助活動は約3%程度です。
水による事故は、大人自身が、海や川で水遊びや魚とり、釣りをしているときに発生しているということが、こうしたデータからもわかってきます。

海に出かける前には気象情報の確認を

海のレジャーに出かける時には、なん日も前から予定してお出かけになる方も多いかも知れません。しかし、出発直前に気象情報を確認して、出かけない決断をすることも、海での事故を避けるためには、とても大切なことです。
気象予報で「大気の状態が不安定」と伝えられている時には、天気が急変し、突然の大雨や落雷、突風の可能性があるので、海のレジャーに出かけるのは危険です。陸上であれば高いビルや樹木などに落雷しますが、海にも落雷はあります。
高い建物などがない海では、レジャーを楽しむ人に雷が落ちる標的になります。また、直撃されなくても、雷が水中で広がることで、周辺の人も感電してしまいます。感電死しないとしても、水中を伝わる雷のショックで気絶してしまい、溺死につながるのです。
もしも、すでに海にいるときに雷がなったら、海に入っている人はすぐに浜辺に引き上げて、コンクリートの建物や自動車などのより安全な場所に避難するようにしましょう。近くに建物などがない場合には、雷がおさまるまで頭をなるべく低くしてしゃがんだ体勢をとります。

また、風に関する注意が促されているときにも、海でのレジャーを控える必要があります。海岸で吹く風には陸風(オフショア)と海風(オンショア)の2種類があります。海岸から沖に向かって吹く陸風が強いと、ビニールボートなどは沖へと流されて、岸に戻れなくなることもあります。陸風は日が暮れてから吹く傾向がありますが、気圧配置や地形によっては昼間でも強い陸風が吹くことがあります。
さらに、潮の満ち引きもあらかじめ確認しておくことが必要です。潮が引いている時には浅瀬でも、潮が満ちてくるといつの間にか深くなってしまい、歩いてこられた場所にも戻れなくなってしまい事故につながることがあります。

波浪にも注意

気象庁では、高い波による被害が発生する恐れがあるときに、波浪注意報や波浪警報、波浪特別警報を発表し、注意警戒を呼びかけます。波浪注意報は、波の高さが3m以上と予想される場合、波浪警報は波の高さが6m以上になると予想される場合に、それぞれ発表されます。
波浪には、その場所で吹いている風によって生じる「風浪」と、遠くの台風などによって作られた波が伝わってきて生じる「うねり」の2種類があります。この2つを合わせて「波浪」と呼んでいます。

2021年4月には、宮崎県串間市の磯で釣りをしていた男性2人が突然の大きな波にさらわれるという水難事故がありました。この時、宮崎県内は高気圧に覆われていて風も弱く、海上の波も比較的穏やかで、波浪注意報も出ていなかったものの、日本のはるか南に台風があり、その台風が引き起こした「うねり」の影響だと考えられています。こうした波は「一発大波」などと呼ばれていて、100〜1000回に一度、突然、大きな波がやってくるという現象です。
海のレジャーの際には、目的地の波浪情報はもちろん、離れた地域による気象条件などが高波をもたらす可能性があるということも覚えておきましょう。

地面ごと動く津波の怖さ

波による水難には、波浪のほかに津波があります。津波の恐ろしさは、多くの人が2011年に発生した東日本大震災の記憶から感じていらっしゃることかも知れません。
波浪は風が吹くことによって海面付近の海水が動く現象で、波長(波の長さ)は数メートル〜数百メートル程度の大きさとなります。しかし、津波は地震によって海底から海面までの海水全体が短時間に動き、それがエネルギーの大きな波となって周囲に広がっていく現象で、波長は数キロメートル〜数百キロメートルと非常に長く、勢いが衰えずに連続して押し寄せ、浅い海岸付近に来ると波の高さが急激に高くなります。津波が引く場合にも、強い力で長時間に渡って引き続け、破壊した家屋などの漂流物を一気に海の中に引き込むのです。
数分から数十分に渡って大量の海水が押し寄せ、また数分から数十分に渡って引くという押し引きを繰り返し、津波が陸上を襲った場合、人や建物を押し流し、大きな被害をもたらすことがあるのが、津波なのです。

津波の高さ0.2m〜0.3m程度でも、人は速い流れに巻き込まれてしまう恐れがあり、気象庁からも0.2m以上の津波が予測された場合には、津波注意報を発表します。津波注意報が発表されたら、一刻も早く海から上がって、速やかに海岸を離れて津波避難ビルや津波避難場所などの高台に避難することが大切です。

海水浴場などで津波による注意を促す「津波フラッグ」

津波は、地震などにともなって発生します。波浪と違い、海に出かける前に危険性を確認することはできません。また、遊泳中などは地震に気付きにくいかも知れません。テレビやラジオ、携帯電話などから地震や津波の情報を得ることも、海にいるときには困難です。
そうしたことから、2020年6月24日から海水浴場などで「津波フラッグ」によって大津波警報、津波警報、津波注意報が発表されたことを伝える取り組みが始まりました。
津波フラッグは、長方形を四分割した、赤と白の市松模様のデザインです。このデザインは、これまでも主に船舶間の通信に用いられていて、「貴船の進路に危険あり」を意味する国際信号旗である「U旗」と同じデザイン。海外でも海からの緊急避難を知らせる側として、多く用いられています。まだ全ての海岸で導入されているわけではありませんが、全国のいくつかの海水浴場などでは運用されています。
導入されている海水浴場などでは、津波警報などが出された時には、監視塔や海岸近くの建物の上などから津波フラッグが振られたり、掲揚されるので、もしも見かけたら速やかに海から上がり、津波避難タワーや津波避難場所などの高い場所を目指して避難するようにしましょう。

気づかないうちに沖に流される「離岸流(リップカレント)」

海水浴場での溺れる事故を引き起こしている要因のうちの、約60%を占めていると言われている海洋特有の現象があります。それが、離岸流(リップカレント)です。
波は沖から海岸に次々に打ち寄せますが、そのままでは水はどんどん岸に溜まっていって波打ち際の水位が高くなってしまうので、どこかから沖へ戻ろうとします。この時、その流れが集まって、岸から沖に向かって早い流れが生じます。その流れのことを、離岸流と呼んでいます。
離岸流は天候などに関わらず、またどんな場所でも発生する可能性があります。1ヶ月近く同じ場所で発生することもあれば、発生から1時間ほどで位置を変えることもあります。離岸流の長さは最大で数百メートルにおよび、幅は10~30メートルほど。離岸流が発生している場所では、大人のひざ上ほどの水深から流れが速くなり、最大で秒速2メートル(1分間で120メートル流されるくらい)に達することもあります。
気づかないうちに離岸流に巻き込まれてしまい、知らず知らずのうちに沖まで流されてしまうことがあるので、注意が必要なのです。

どんな場所でも発生する可能性がある離岸流ですが、発生しやすい場所もあります。例えば、海岸が外海に面しているような場所や、遠浅で海岸線が長い場所、海岸の近くに人工構造物(海岸から沖に向かって突き出した堤防など)があるようなところです。特に波が他よりも深く打ち寄せていて数百メートルにわたってアーチ状になっているようなところでは、アーチの最も凹んでいるところに海水が集中して、波が入ってきた反対側の方向に強い離岸流が発生しやすくなります。
離岸流が発生しているかどうかは、目視で確認するのは難しいですが、こうした離岸流が発生しやすい場所をできる限り避けて海水浴を楽しみましょう。離岸流が発生しやすい場所を遊泳禁止区域とされていることもあります。当たり前のことですが、遊泳禁止区域へは侵入しないようにすることも大切です。

もしも離岸流に巻き込まれてしまったら、「沖に流される」という恐怖感からパニックに陥るかもしれません。岸に戻ろうと流れに逆らって泳ぐと、体力を消耗して溺れてしまう危険性が高まります。まずはパニックを起こさずに落ち着いて、可能であれば片手を大きく振って(世界共通のヘルプサイン)周りの人に助けを求めるサインを出しましょう。そして、まずは岸と並行に泳いで、離岸流を脱出し、沖に向かう流れを感じなくなったら、ゆっくりと岸に向かって泳ぐようにします。泳ぎに自信のない人は、無理に泳がずに水面に平行に浮かぶように仰向けになり、力を抜いてあごを少し上げて、手足を広げ、背浮きをして救助を待ちましょう。

海で溺れた人を見かけたら

海で溺れている人を見かけたら、「一刻も早く助けなければ」と自分で救助に向かおうとする方も少なくないかも知れません。しかし、水難救助活動で命を落としてしまうケースもあります。
もしも海で溺れている人を見かけても、自分で直接助けに行くのではなく「浮いて待て」と溺れている人に声をかけて落ち着かせて、海水浴場の監視員やライフセーバーなどに助けを求めて、実際の救助活動はこうしたプロに任せるのが基本です。監視員やライフセーバーのいないところでは、海上保安庁の緊急通報用電話番号「118番」や119番(消防)、110番(警察)に通報し、救助を求めましょう。通報する際にも、落ち着いて、「どのような事故か」「事故の場所」「事故の人数」「通報した人の名前と連絡先」を伝えることが大切です。
その上で、まずは自分の安全を確保し、周りの人にも助けを求めて、道具を使うなどして救助を試みましょう。浮き輪やペットボトル、クーラーボックスなど、身の回りの浮くものを溺れている人に投げ入れたり、長い棒を差し伸べたりという方法があります。ペットボトルを投げ入れる時には、少し水を入れてキャップをしっかりと閉めると投げやすくなります。投げいれる時には溺れている人に声をかけて、溺れた人に当たらないように気をつけながら下手投げで投げ入れましょう。


海には様々な危険もありますが、事前の備えや安全に考慮した行動をとることでリスクを最小限に抑えることはできます。
子どもと一緒に海のレジャーを楽しむ時には、目を離さずに目が届く範囲で行動することや、飲酒して海に入らないこと、天候はもちろん自分の体調も考慮して無理をしないこと、単独行動をしないことなども大切なことです。
必要に応じて、ライフジャケットの着用も検討しましょう。
また、夏は海の中にいても熱中症のリスクはあります。こまめな休憩と、水分と塩分の補給も忘れずに行いましょう。


この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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