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正常性バイアスとは?危険を過小評価する落とし穴。災害でおきた事例と対策

様々な判断やストレスに過度に反応しないよう、心を守る機能「正常性バイアス」。この機能が逆に作用し、災害から逃げ遅れることもあります。

もともと、正常性バイアスは、日常でのたくさんの判断や、心理的ストレスの全てに反応をしなくても済むように、ある程度の範囲は正常なものとして考え、ふるいにかけることで、「心の平穏」を守るための機能として備わっています。

しかし、日常では心を守るための機能が、災害などの非常時に強く働くことで、一刻も早く避難しないといけない状況にいながら、「自分は大丈夫」「これくらいなら避難しなくてもいい」と考えてしまい、大きな落とし穴となる場合があります。

災害時の被害拡大の原因は「パニックになること」と思われがちですが、実は危険を過小評価する「正常化バイアス」による逃げ遅れが多くを占めています。
正常性バイアスに惑わされないためにどうすればいいのか、実際に起きた災害での事例と、その対策について紹介いたします。

正常性バイアスとは

「正常性バイアス」は心理学で使われる用語です。災害時における正常性バイアスの意味としては、人が予期しない事態に直面したとき、「ありえない」という先入観や思い込み(バイアス)が働き、起きていることを正常な範囲だと自動的に考えてしまう、心の働きのことをいいます。

地震や津波、火災、洪水など、経験したことのない事態におそわれたとき、非常事態であるにもかかわらず、心の防衛機能(=正常性バイアス)によってその認識が妨げられ「自分に大きな危険がふりかかるわけがない」「まだ誰も逃げていないから大丈夫」と思い込んでしまい、正常な判断や身を守るための行動ができなくなり、避難行動が遅れてしまう現状があるのです。

大きな災害があれば、正常な判断ができると思うかもしれませんが、実際に災害に直面すると「正常性バイアス」は予想外の大きなチカラで人々の行動を制限し、大きな災害や事故を生み出しています。

誰もが「自分だけは大丈夫」と信じている

想像してみてください。たった今、私たちが大震災にみまわれたとします。ゆれがおさまったあと、皆さんはどんなことをしているでしょう?

「自分や家族の無事を確認する」
「テレビやインターネットで自分が住んでいる地域の震度を確認する」
「津波警報が出ていないか確認をする」
「隣近所の人と無事を確認する」

自分の想像した内容は、ありましたでしょうか?

しかし、実際には「自分が大怪我をしている」こともありえます。
自分の命を脅かすようなことは「自分にはおこらない」と考えていませんでしたか?これも正常性バイアスの一つです。

大震災が起きると、平静でなくなった心の中に、大量の情報が一気に入ってきます。このような状況で、次の行動を判断しなくてはならないのです。皆さんの中には、正しい判断を下そうと「務めて冷静に」考えようとする人もいるでしょう。
しかし、冷静に判断をしたつもりでも、「自分に危険は起きるはずがない」という思い込みから、地震のおきた直後にもかかわらず「まだ緊急事態ではない」と、正常な判断できない状況に陥る恐れがあります。

また、災害大国である日本は、地震や台風や大雨による被害が多発し、たびたび避難勧告などが出されていますが、実際に避難する人が少ない現状もあります。

避難をしない理由としては「以前に避難勧告が出された時も自分は被害に遭わなかった」、「近隣の人も避難していないから」などが挙げられています。以前は問題がなかったとしても、今回も同様に問題ないという確証はありません。また、近隣の人が常に正しい判断をしているとも限りません。

上記のように根拠のない内容を「避難しない理由」として選択することも、正常性バイアスによる影響が及んでいると考えられます。「自分だけは大丈夫」「ここだけは大丈夫」という心理を見直し、生きのびるための最善の道を選択することが大切です。

正常性バイアスにより被害が拡大した事例

災害時の正常性バイアスによって、実際に大きな被害となったケースを紹介いたします。

○ 平成30年7月豪雨(西日本豪雨災害)
西日本を中心に記録的な豪雨となり、中国・四国地方などで河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ、200名を超える死者・行方不明者を出すなど甚大な被害が発生しました。

この豪雨が起きる前、気象庁では「大雨特別警報」を発令、記者会見を開きテレビやラジオを通じて災害発生の危険があることを呼びかけていました。
しかし、NHKが被災者310人に対して行なったアンケートでは、「テレビ・ラジオ」がきっかけで避難を決意した人は4.5%と非常に少なく、周囲で浸水や川の氾濫、土砂災害が発生するなど、「周辺環境の悪化」してからの避難が1位(33.5%)という結果となっていました。

このように、どれだけ警報を発令していても、実際に身に危険が差し迫るまでは避難を決断しなかったという実態が明らかとなっています。また、被害が大きかった真備町では、「ダムがあるから安全と油断して逃げ遅れた」という声が多く聞かれました。



○ 東日本大震災
2011年3月に発生した東日本大震災では、15,000人を超える人が亡くなり、そのほとんどが津波による犠牲者となっています。
地震が起きてから大津波が到達するまでには約1時間あり、津波から避難するには十分な時間であったと考えられます。しかし、「自分の住む町には高い堤防があるから逃げなくてもいいだろう」「自分の家はハザードマップでは安全なところだから大丈夫」と考えていた人たちもいました。
そのような思い込みの結果、津波避難の警報が出ても避難しない人が多く、実際に津波を目撃してから初めて避難行動に移り、避難が遅れたことにより多数の犠牲者がでてしまいました。

正常性バイアスによって根拠のない楽観的な思考に陥り、避難を遅らせた可能性が指摘されており、津波被害の大きな課題となっています。



○ 大邱地下鉄放火事件
2003年に韓国の地下鉄で、約200人の犠牲者が出た悲惨な放火事件があります。
火災が発生し車内に煙が充満、プラットフォームの反対側の電車が燃え、自分たちの車両にも煙がたち込めているにもかかわらず、鼻や口を抑えてシートに座ったままの乗客たちの写真が残されています。
乗っている地下鉄の車内が火災の煙で充満しているのにも関わらず、「軽いボヤか何かだろう…」と思い込みその場にい続け、多くの乗客が炎と煙の犠牲になりました。

このような緊急事態に出くわした時、パニックのような過剰防衛反応を起さず、それを無視しようとする「正常性バイアス」が働き「逃げる」という選択肢を消し去ってしまった事例です。

正常性バイアスに惑わされないための対策

○ 経験のないことは想像できない。危険について知っておくこと
正常性バイアスに惑わされないために重要なことは、危険について知ること=訓練することです。災害など予期しない事態に遭遇したときに正常性バイアスは起こります。

先ほどの、大震災が起きても「自分が怪我をする」とは想像できない例のように、実際に被災した経験がない人の多くは、自分にどんな危険が起こるかを想像ができません。
防災に関する知識を身につけ、災害を想定した訓練を重ねることで、非常時にも正常な判断力を失わず、適切な行動をとることができるようになります。

また、自分の経験による誤った判断を防ぐために、実際に発生した災害事例を知っておくことも重要です。
自治体のWEBサイトでは、過去の災害データやハザードマップで被害想定区域など確認することができます。自分が住んでいる地域にどんな危険があるのかを知ることも、実際のデータを基にした正常な判断につながります。

○ 災害は想定外が起きるもの、避難が無駄になっても最善の行動を。
災害では想定外のことが起きることも肝に銘じておきましょう。
東日本大震災では、前もって備えていた堤防を大きく超えて津波が襲ってきました。津波の被害の大きかった岩手県釜石市では「100回逃げて、100回来なくても、101回目も必ず逃げて」という標語が残されています。
以前の避難が空振りに終わっても、今回は被害にあうかもしれないと考えて行動することが大切です。

○ 正常性バイアスを打ち破った「釜石の奇跡」
最後に一つ、正常性バイアスを打ち破り、多くの命を救った「釜石の奇跡」をご紹介しましょう。

岩手県釜石市 釜石東中学校での出来事です。
東日本大震災の起きた直後、中学校では生徒が「津波がくるぞ!逃げろ!」と大声で叫びながら避難先に指定されていたグループホームへ避難を始めました。隣接する小学校では子どもたちは校舎の3階に避難していましたが、中学生が避難する様子を見て、その後に続きました。
そして、中学生と小学生は避難場所のグループホームに到着します。しかし、津波の様子を見た生徒たちが、ここにいても危険だと先生に訴え、さらに高台の施設を目指して避難をすることとなります。避難の途中、保育園から園児を避難させるのを手伝い、その様子を見た近くの住民もつられて、高台に避難を開始します。
そして、全員が高台についた、その30秒後に津波が施設の目前まで迫りました。最初に避難したグループホームにも3メートルの高さを超える津波が押し寄せたそうです。

これは、中学生があらかじめ定められた避難場所が安全であるという、正常性バイアスにとらわれず、さらに安全な場所に避難を続けたことが一つ目の教訓です。
そして、その中学生の行動を見た人に伝わり、皆がつられて行動をしたことで、さらにたくさんの人の命を救いました。

非日常的なできごとを前にすると、誰もが他人の行動を見て事態の深刻さを判断しようとします。「自分だけは大丈夫」という正常性バイアスは人にも伝わります。
それとは逆に、一人が正常性バイアスを打ち破り避難を始めれば、ほかの人もつられて避難を始め、たくさんの人の命を救うこともできます。

被害の拡大を防ぐには行動あるのみ!
正しい知識を身に着け、「空振りでも構わない」という心がまえで、災害が起こったらいち早く避難行動を起こしましょう。その危機感がまわりの人にも伝わり、被害を小さくすることが出来るのです。

この記事を書いた人

moshimo ストック 編集部

防災をしたいけど情報がたくさんあって、何から始めればいいの…?
私たち moshimo ストックも始めは知ることが幅広くて、防災ってちょっと難しいな…と思いました。
そんな "元初心者" の編集部が、初めての方にもわかりやすいよう防災・備蓄・災害についての情報をお届けいたします。
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