災害時の正常性バイアスによって、実際に大きな被害となったケースを紹介いたします。
○ 平成30年7月豪雨(西日本豪雨災害)
西日本を中心に記録的な豪雨となり、中国・四国地方などで河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ、200名を超える死者・行方不明者を出すなど甚大な被害が発生しました。
この豪雨が起きる前、気象庁では「大雨特別警報」を発令、記者会見を開きテレビやラジオを通じて災害発生の危険があることを呼びかけていました。
しかし、NHKが被災者310人に対して行なったアンケートでは、「テレビ・ラジオ」がきっかけで避難を決意した人は4.5%と非常に少なく、周囲で浸水や川の氾濫、土砂災害が発生するなど、「周辺環境の悪化」してからの避難が1位(33.5%)という結果となっていました。
このように、どれだけ警報を発令していても、実際に身に危険が差し迫るまでは避難を決断しなかったという実態が明らかとなっています。また、被害が大きかった真備町では、「ダムがあるから安全と油断して逃げ遅れた」という声が多く聞かれました。
○ 東日本大震災
2011年3月に発生した東日本大震災では、15,000人を超える人が亡くなり、そのほとんどが津波による犠牲者となっています。
地震が起きてから大津波が到達するまでには約1時間あり、津波から避難するには十分な時間であったと考えられます。しかし、「自分の住む町には高い堤防があるから逃げなくてもいいだろう」「自分の家はハザードマップでは安全なところだから大丈夫」と考えていた人たちもいました。
そのような思い込みの結果、津波避難の警報が出ても避難しない人が多く、実際に津波を目撃してから初めて避難行動に移り、避難が遅れたことにより多数の犠牲者がでてしまいました。
正常性バイアスによって根拠のない楽観的な思考に陥り、避難を遅らせた可能性が指摘されており、津波被害の大きな課題となっています。
○ 大邱地下鉄放火事件
2003年に韓国の地下鉄で、約200人の犠牲者が出た悲惨な放火事件があります。
火災が発生し車内に煙が充満、プラットフォームの反対側の電車が燃え、自分たちの車両にも煙がたち込めているにもかかわらず、鼻や口を抑えてシートに座ったままの乗客たちの写真が残されています。
乗っている地下鉄の車内が火災の煙で充満しているのにも関わらず、「軽いボヤか何かだろう…」と思い込みその場にい続け、多くの乗客が炎と煙の犠牲になりました。
このような緊急事態に出くわした時、パニックのような過剰防衛反応を起さず、それを無視しようとする「正常性バイアス」が働き「逃げる」という選択肢を消し去ってしまった事例です。