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時速20~40kmで迫り、建物を押し流す土石流。早めの避難を心がけよう

6~7月は梅雨となり、7~10月は台風が多く接近するため、梅雨から秋にかけては雨が集中して降る季節です。直接の雨風による被害だけでなく、雨によって地盤がゆるむことで土砂災害も多くおきる時期となりますので注意が必要です。
土砂災害の中でも、土石流は凄まじいエネルギーで人を建物ごと押し流し、土砂が田畑を埋めることもありますので、人が生活をする地域でおきれば被害がとても大きくなります。今回は土石流がおきる仕組みや被害について紹介をします。

土石流がおきる仕組み

土石流の多くは大雨によって引きおこされます。まず、大雨によって地盤がゆるみ山の斜面がくずれ、川に土砂が流れ込み、増水した川の水と混ざり流れていきます。この時、川の傾斜が大きいほど勢いは強くなり、川底の土砂を巻き上げます。運ばれる土砂の量が増えていくことでエネルギーも増し、雪だるま式に成長していきます。そして、川岸の木や大きな岩を取り込みながら、建物を押し流すほどの勢いとなるのです。

土石流は大雨以外が原因となることがありますので、梅雨や台風以外の季節でも注意が必要です。
雪が多く積もる地域では春に雨が降ると、雪がとけ大量の水となって地盤をゆるませる場合や、地震によって山の斜面がくずれ、土砂が川に流れ込み土石流がおきることがあります。とくに、地震の後に大量の雨が降ると土石流などの土砂災害がおきやすくなるため注意しましょう。

また、火山の噴火が土石流の原因となることもあります。
これにはいくつかのパターンがあり、溶岩や火砕流の熱で雪がとける、火口から熱水や泥水が噴出する、火口付近の湖が決壊するなどして大量の水が生まれることで、土石流につながることがあります。これら噴火が原因となるものは通常の土石流と比べて、大きな石が少なく火山灰を多く含み泥状となることが多いため、土石流ではなく火山泥流と呼ばれることもあります。
その他にも、噴火によって山に火山灰がすきまなく積もると、地面に水がしみこまず雨水が地表を流れます。通常は地下水となる水が、狭い谷に集まることで勢いを増し、土石流をおこすことがあります。火山灰による土石流は雨が降るたびに繰り返しおこる可能性があるので、火山灰が降ってからしばらくは注意が必要です。

時間差でおきる場合

土石流は大雨がおさまった後に時間差でおきることがあります。
まず、大雨や地震により山の斜面がくずれてできた土砂や、上流でおきた土石流によって積もった土砂が、川をせき止め天然のダムを作ります。天然のダムができると、池のように大量の水がたまることになります。そして、天然ダムが水の圧力でくずれると大量の水と土砂が勢いよく流れだし、土石流となることがあります。
この天然ダムはしばらく水をため込み、時間をおいてからくずれることもあります。雨が上がった後に土石流がおきることもあり、2018年西日本豪雨では広島県府中町で、台風が通過した3日後に土石流がおきました。

土石流による被害

規模にもよりますが、土石流の速度は時速20~40kmとなり、直径1mを超えるような岩の塊や、なぎ倒された木とともに流れてきます。その凄まじいエネルギーによって建物や道路を押し流し、田畑に流れ込み大きな被害をおこします。

土石流の始まりは山の斜面がくずれやすい傾斜が15度以上の山中でおこることが多く、流れが速くなる15~20度の地域では川底を削って大きくなり勢いを増し、10度前後でだんだんと減速をしながら扇状に広がり、2~3度で止まることが多くなります。
傾斜が急な地域では、土石流はまっすぐ線上に進みますが、傾斜がゆるくなってくるとだんだんと広がるため、被害を受ける面積が広くなります。また、もともとある川筋に沿って進むわけではなく、上流から流れてきた方向に向かって直進をしますので。川筋に沿っていない地域でも注意が必要です。

土石流の兆候

土石流などの土砂災害は、1時間あたり50mm以上の非常に激しい雨が降るとおこる危険が高くなります。ただし、それ以下の雨量であっても長時間降り続ければ、土砂災害がおこる可能性が高まりますので油断はできません。
山の上や川の上流で、どのように雨が降っているかはわかりにくいため、大雨の予報が出ているときには気象庁や市町村からの情報をしっかり確認し、「避難指示」や「高齢者等避難」と発表された時にはすぐに避難をしましょう。
また、暗くなってからの避難は危険がともなうほか、寝ている間に土砂災害がおこることもあります。ハザードマップで危険な地域にいる場合、避難指示がでていなくても避難所が開設されていれば、暗くなる前に避難をする方がよいでしょう。

また、気象庁や市町村からの情報以外にも、下のような兆候があれば土石流のおきる可能性が高くなりますので避難をするようにしてください。
  • 山鳴りや地響きがする
  • 立木が裂ける音や石がぶつかり合う音が聞こえる
  • 泥臭いにおいがする
  • 川の水が急ににごる、流木が流れてくる
  • 雨が降り続くのに川の水位が下がる

人災となった熱海の土石流

2021年におきた熱海での土石流災害では、災害関連死を含む28人が死者・行方不明者となり、半壊もしくは全壊の家屋は128棟となる甚大な被害となりました。
また、土石流のおきた逢初川沿いは警戒区域とされ立ち入り禁止となり、158世帯が避難を行いました。そして、この警戒区域は2023年の9月1日まで解除されず、土石流の発生から約2年2か月間も続くこととなりました。

この熱海での土石流は、逢初川の上流に“違法に捨てられた土”が大雨によって川に流れ出したことが原因となり、この土が無ければおきなかったものとされています。
元々、この土地を購入した事業者は、宅地をつくるため土砂を積み上げて平坦な土地をつくるための「盛土(もりど)」を15mまで行う計画書を熱海市に出していましたが、後に計画を変更し残土処理場とするものとしていました。この変更時にも盛土の高さは修正されていなかったものの、実際には50m近くまで土が積み上げられていました。また、盛土がくずれることを防ぐために岩石を積んだ堤防を設置する計画もされていましたが、この堤防も実際には設置がされていませんでした。
通常、盛土を行う場合には、良質の盛土材(土や砂、小石など)を使用する、排水設備を設ける、土を十分に締め固めることが必要となります。しかし、問題のあった盛土には木片、コンクリート片、金属片など様々なものが混入しており、盛土の表面に配水設備が無く、土もきちんと締め固められてはいませんでした。また、土石流がおこる以前に、盛土に小さな崩壊があったことが確認されています。

土地の所有者と施工者は市に提出したの計画通りに盛土を行い、安全性に基づき適切に施工を行うこと。また、行政は事業者による計画外の行為を確認した時点で、命令措置を出し法令を遵守させることができていれば、防げる可能性が高かった災害でした。
なお、この熱海での土石流をきっかけとし、危険な盛土を規制するため「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称「盛土規制法」)が2023年5月26日に施行されることになりました。


土石流に限らず、大雨や台風によっておこる風水害や土砂災害は、天気予報でくることが予測できます。大雨となる日にはできる限り外出をひかえ、気象庁や市町村からの情報をチェックして早めの避難を心がけましょう。


参考資料

防災科学技術研究所 自然災害情報室
自然災害について学ぼう 16.土石流


第10回 土砂災害に関するシンポジウム論文集,2020年9月
融雪土砂災害に対する融雪を考慮した土砂災害警戒情報の適用性の検討


2021年度砂防学会研究発表会概要集
融雪型火山泥流の発生要因と移動特性について


気象庁 主な火山災害

土砂災害防止広報センター 土砂災害とは

土砂災害防止広報センター 火山災害

国土交通省 中部地方整備局
御嶽山 火山防災だより vol.21


府中町 平成30年7月豪雨災害による被災状況など

国土交通省 土石流とその対策

熱海市 【解除】災害対策基本法第63条に基づく警戒区域の設定

政府広報オンライン
土砂災害から身を守る3つのポイント あなたも危険な場所にお住まいかもしれません!


静岡県 逢初川土石流災害に係る行政対応検証委員会
検証委員会最終報告書(令和4年5月13日公表)

地下水学会誌 第65巻第1号
2021年に熱海市で発生した盛土の崩壊により土石流を生じた原因の考察


熱海市議会 伊豆山土石流災害に関する調査報告書

国土交通省 「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称「盛土規制法」)について

この記事を書いた人

moshimo ストック 編集部

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私たち moshimo ストックも始めは知ることが幅広くて、防災ってちょっと難しいな…と思いました。
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