震度7の激しい揺れや10メートルを超える大津波が太平洋沿岸を襲い、最悪の場合32万人を超える人が亡くなると想定されている、南海トラフ地震。都心南部の直下でマグニチュード7.3、震度7の地震が発生し、風が強い最悪の場合にはあちこちで火災も発生して、3万3,000人もが亡くなり全壊または焼失する建物は61万棟にのぼると想定されている、首都直下型地震。
この二つの大地震、それぞれで想定されている被害は、私たちが「どのように備え」「地震が発生した時に、どのように行動する」のかによって、減らすことができます。
南海トラフ地震の発生確率は、今後20年以内に60%。
首都直下型地震の発生確率は、今後30年以内に70%。
その時、あなたは、どう行動しますか?
大規模な地震災害が発生した時には、地震発生から、2〜5分後、5〜10分後、10分〜半日後、半日〜3日後、3日以降と、少しずつ状況が変わってきます。その状況に合わせて、心がけるべきことや、とるべき行動も変わってきます。
その変化していく状況と、ひとりひとりがとるべき行動から「地震の時間割(地震対策の時間割)」とも言われています。
また、東京都や内閣府からは首都直下型地震が発生した時にどのような被害が発生すると想定されているのか、
身の回りで起こりうる被害のタイムラインも公表されています。
“その時”にどのような行動をとれば良いのか、イメージしておきましょう。
1、 地震発生0分〜2分 「自分の身を守る」命を守る時間帯
地震が発生した、その時、大きな揺れの中では、まずは「自分の身の安全を確保する」自分自身の命を守る時です。最初の大きな揺れの時間は、阪神淡路大震災では約20秒間、東日本大震災では約2分間だったと言われています。
南海トラフ地震や首都直下型地震では、この揺れがどれくらいの長さになるのかはわかりませんが、まずは大きな揺れが発生した時には、テーブルや机の下に潜ったり、座布団や外にいるときには鞄などの手近なもので頭を守りましょう。就寝中であれば、布団をかぶりましょう。
パニックになりがちなお子さんやご高齢の方がいらっしゃるご家庭では、「大丈夫」「落ち着いて」などと、声をかけてあげましょう。
キッチンには調理器具や食器、煮立った鍋など、危険なものがたくさんあります。大きな揺れが発生したその時は、まずは火の始末よりもこうした危険なものから身を守るため、キッチンから離れることを優先します。ガスコンロの前にいて揺れが小さければ火を止めてもかまいませんが、わざわざ火を止めに向かわないようにしましょう。
固定していない家具や家電製品からも、できるだけ離れるようにしましょう。
こうした、最初の大きな揺れの中で身を守るためにも、普段からしっかりと家具・家電の固定をしたり、食器棚の扉には耐震ラッチを設置しておくなどの対策が大切です。
揺れている間は、むやみに外に出るのは危険なので、その場で身の安全を確保するのが基本ですが、津波の危険性がある場合や倒壊の可能性がある建物にいる場合などは、躊躇せずに避難しましょう。お住まいや職場などが津波災害警戒区域にある方は、日頃から近くの津波避難ビルの場所を確認しておきましょう。
屋外では、瓦や窓ガラス、看板などが落ちてきたり、破損したブロック塀が壊れることもあります。近寄らないように注意しましょう。
また、揺れが来る前に緊急地震速報や「南海トラフ地震臨時情報」などの情報が入ってくることもあるでしょう。この時には、揺れを待たずに、安全を確保する行動をとりましょう。
2、 揺れがおさまってすぐ〜10分後 「火の始末と出口の確保」と「安全確認」二次災害を防ぐ時間帯
自分の身の安全が確保できて、揺れがおさまったら、住まいや職場の安全を確保する時間です。火の始末をしましょう。アイロンやドライヤー、ファンヒーターなど、熱を発する電化製品は、コンセントから抜きます。石油ストーブなども、いったん、すべて消しましょう。
停電していたら、やがて復旧しますが、電化製品の電源が自動的にONになったり、破損した電気や水濡れによってショートしたりしておこる通電火災を防ぐためにブレーカーを落としておくことも大切です。
さらに、出火がないかも確認しましょう。都市ガスやL Pガスは、大きな揺れと同時にガスの供給が止まるようになっていますが、ガス漏れや破損などがないかも確認しましょう。
もしも出火していたら、ご近所などに大きな声で「火事です」と伝えて、炎の小さいうちに消火します。ただし、炎が天井まで達しそうであれば、躊躇せずに外へ出て安全を確保して、ご近所に火災を伝えるとともに119番通報しましょう。災害時には消防に電話が繋がりにくいかもしれませんが、自分や家族、ご近所の人たちの身の安全を確保することが、最優先です。
また、余震に備えてドアを開けるなどして、出口の確保をしましょう。
部屋の中は、ガラスの破片などが散らばっているかもしれません。足をケガしないように、靴を履きましょう。素足で歩くのが危険な状態になっているときには、部屋の中でも靴を履いて過ごした方が安全です。
家屋の被害状況を点検して、余震で被害が拡大しそうなおそれがあれば、避難の準備をしましょう。沿岸部などでは、津波に備えてすぐに避難する必要があります。ラジオなどで情報収集しましょう。
家族の安否確認もしましょう。家具の下敷きになったり、ケガをしている場合には、救出・救護にあたりましょう。必要に応じて、止血や心配蘇生などを行いながら、救護の要請・医療機関への搬送も考えましょう。119番通報は繋がりにくいかもしれませんが、二次災害のおそれがあるような場合には、無理せずに隣近所などにも助けを求めてください。
3、10分〜半日後 「街・隣近所を守る」隣近所の安否確認と助け合いの時間帯
余震に気をつけながら、非常持ち出し品を確認しましょう。必要な時にすぐに避難できるように、非常用持ち出し袋に必要なものを足すなどしておきます。避難先の確認や、自分は何ができるかなどを考えてください。
外へ出てみて、まわりの様子を確認してみましょう。
隣近所で声を掛け合って、火災などが発生していないか、家屋の倒壊や家具の転倒などで下敷きになっていたり行方が分からなくなっている人がいないか、確認しましょう。下敷きになっているような人がいたら、協力しあって救出・救護します。ケガをしている人がいたら、できるだけ安全な場所に移して応急手当てをして、医療機関への搬送に協力しましょう。
特に、ご近所にご高齢の方や小さなお子さん、妊婦さん、障がいのある方など、配慮が必要な人(災害時要配慮者)がいる場合には、すぐに駆けつけて安否確認し、安全な場所への避難を誘導してください。
近隣で出火を発見したら、「火事です」と大声で隣近所に知らせましょう。自分だけでなんとかしようとせずに、協力を求めることが大切です。隣近所の人たちは、消火器や水を入れたバケツなどを持ってかけつけて、協力して初期消火を行うようにしてください。
4、半日〜3日後 「生活を守る」自分でしのぐ時間帯
この頃になると、少し落ち着き始めます。「とりあえず、生活をしていく」段階に入っていきます。ただし、大規模な地震が発生した場合には、電気や水道などのライフラインは途絶えているはずです。食料の流通も途絶えていて、コンビニやスーパーも被災しているため、新たに飲み物や食料を買い足すこともままならないはずです。避難所でも、飲み物や食料の配給は、まだ十分におこなわれないかもしれません。
こうした不便を強いられる生活環境の中で、備蓄しておいた飲料水や食料などでしのいでいかなくてはなりません。
隣近所で食材を持ち寄って炊き出しをしたり、知恵と工夫と努力で、生活を守っていきましょう。
5、3日目以降 「復旧・復興」へ
大きな余震などがなければ、地震発生から3日目以降くらいから、徐々に防災機関の応急・復旧活動が本格化してきます。地震発生直後から、自治体や政府、自衛隊や消防・警察などの各機関は救助・救援・復旧のために動いていますが、公助を私たちが実感をもてるようになるには、これくらいの時間がかかるかもしれません。
ボランティアが被災地に到着して、支援が始まるのにも、これくらいの時間がかかります。
住民とボランティアと行政などが一体となって、復旧・復興に向かい始めるのには、これくらいの時間が必要なのです。
早ければ、電気やガスなどのライフラインも徐々に復旧し始めますが、家電製品やガス機器などを使用する際には必ず安全を確かめてからにしましょう。
また、SNSなどで様々なデマやうわさなども、多く発生するようになります。惑わされることのないように、ラジオやテレビ、新聞などで、正しい情報を得るようにしてください。
南海トラフ地震臨時情報「調査中」「巨大地震警戒」「巨大地震注意」「調査終了」
南海トラフ地震が発生したときには、気象庁が「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」「南海トラフ地震臨時情報(調査終了)」という、段階に応じた情報を発表します。
「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」は、おおよそ地震発生から5分〜30分後に発表される情報です。これは、南海トラフ沿いで発生した地震がきっかけで、南海トラフ沿いで連続して大規模な地震が発生するかもしれないために、その可能性を調査しているというもの。
この情報が出されたら、津波災害警戒区域にいる方など、津波に襲われる可能性のある沿岸部や川の近くにいる方は、津波避難ビルなどに避難しましょう。
地震発生から、早くて2時間後には「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表されます。
これは、南海トラフ沿いで発生した地震がきっかけで、南海トラフ沿いで連続して大規模な地震が発生する可能性が高まっているということです。
大規模な地震にともなう津波からの避難が間に合わない地域にいる方は、この情報が出されたら1週間ほど避難を続けてください。津波の心配がない地域でも、地震に対する日頃からの備えを再確認しましょう。
情報が「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」に切り替えられることもあります。
この情報が出されているうちは、常に家族の所在場所を把握しておいたり、いつでも避難できるように非常用持ち出し袋やヘルメット、履き慣れた靴などを身近に置いておきましょう。また、必要に応じて、自主的に避難しましょう。
「警戒」から「注意」に切り替わっても、大規模地震発生の可能性がなくなったわけではありません。地震の発生に注意しながら、日常の生活を送りましょう。
その後、「南海トラフ地震臨時情報(調査終了)」に切り替わりますが、これも大規模地震発生の可能性がなくなったわけではありません。地震の発生に注意しながら、日常の生活を送りましょう。
地震の時間割は、あくまでも目安。自分で考えて行動することと、備えておくことが重要
地震の時間割は、あくまでも目安です。地震の規模が大きく、被害が大きければ、復旧・復興に向かって歩み始めるのにも、さらに長い時間が掛かるかもしれません。余震が続けば、命を守る時間がさらに長く続くかも知れません。
おおよその目安を知っていても、実際の災害時には、自分で考えて行動することが重要です。
また、被害をできるだけ少なくし、できるだけ早く復旧・復興に向かえるようにするためには、災害に対する備えをしっかりとしておくことが、なによりも大切なのです。
もしも大きな災害が発生したら、「まずは、命を守り抜く」。
このためには、どうしたらいいのか、日頃からしっかりとイメージして、備えておきましょう。
この記事を書いた人
瀬尾 さちこ
防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。
愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)