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地震の危険度が高いキッチン。防災力をアップする収納のポイント

「食べることは、生きること」とも言われます。そんな、私たちが生活をする上で、とても大切な「食」の基地でもあるキッチン。でも、調理のために火を使ったり、ガラスや陶磁器などのわれものが家の中でもっとも集中する場所でもあり、住まいの中で、火災や地震による災害のリスクが一番高い場所でもあります。
災害が発生した時に、キッチンで大けがをしたり、命を落とすことのないように、日頃からしっかと対策をしておきましょう。

いつもの収納の見直しで、避難経路の確保と火災防止を

買い置きの食品や日用品、ゴミ箱など、キッチンの収納に収まりきれないものが、段ボール箱やレジ袋に入れられて、床に置きっぱなしになってはいないでしょうか。
キッチンのレイアウトにも色々なパターンがありますが、シンクやコンロなどのシステムキッチンに立ったとき背中側に食器棚や冷蔵庫を配置する場合、日常的に使い勝手の良い通路幅は70センチ〜120センチとされています。通路を広く取っている住宅でも、150センチ程度でしょう。
こうした通路に物が置かれていると、転倒に繋がります。また、地震や火災が発生した時には、避難経路をふさいでしまうことになります。キッチンの床にモノが置きっぱなしにならないようにしましょう。

また、キッチンの作業台の上やコンロ周辺に、調理器具や調味料なども出したままにしないように、こまめに片付けるようにしましょう。
「もしも、キッチンに立っているときに、大きな地震が発生したら・・・」と想像してみてください。作業台に出されたままの鍋やフライパン、食器類は散らばり、あなたを直撃するかもしれません。
さらに、ガスコンロの正面の壁面にフライヤーなどの調理器具を掛けて収納していたり、調味料を並べていたりすると、調理の際にそれらを取ろうとして、洋服の袖に引火して火傷や、場合によっては大きな火災につながることもありますので、ガスコンロの近くには原則として何も置かないようにしましょう。

キッチンの地震対策、3つのポイント

床や作業台の上に置かれたままのものを収納したら、次は食器棚や冷蔵庫、電子レンジなどの大きな家具や家電製品を固定しましょう。
地震の震度別の状況をまとめた気象庁地震階級では、「震度6弱の地震で、固定していない家具の大半が移動し、倒れるものがある」と出されています。
震度7を観測する地震が1回、6強の地震が2回、6弱の地震が3回発生した、2016年の熊本地震では、電子レンジが1メートル先まで飛ばされたという報告もされています。
こうした大規模な地震は、いつどこで発生するかわかりません。ここ数十年の間に必ず発生すると言われている南海トラフ地震は、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7、隣接する周辺の広い地域では震度6強から6弱の強い揺れになると、政府の中央防災会議で想定されています。

食器棚や冷蔵庫、電子レンジなども固定を

「重いから大丈夫」と思う家電製品や食器棚なども、大きな地震の際には転倒したり移動する可能性があります。しっかりと固定しておくようにしましょう。
食器棚などの大型家具の固定で、一番強度のあるものは、ビス留めができるL時金具やチェーンです。ただし、壁にビスを打ち込む際には、柱や桟を探して打ち込む必要があります。一般的な住宅の壁の下地には石膏ボード(プラスターボード)が使われていて、石膏ボードにビスを打ち込んだ場合には、大きな揺れが来た時にビスが抜けてしまう可能性があります。

ビス留めできない食器棚や冷蔵庫は、強力な接着パッドで貼る、冷蔵庫用の「転倒防止ベルト」がホームセンターなどで売られています。
突っ張り棒タイプの家具転倒防止ポールもありますが、これは単体ではなく、耐震マットなどと併用して使用することで強度が増します。突っ張り棒を使用する際には、食器棚や冷蔵庫の前側ではなく、壁に寄せて2本、入れるようにしましょう。また、壁と同様に、天井も梁を探して入れるようにしましょう。梁のないところに転倒防止ポールを入れてしまうと、大きな揺れの際に天井に穴が空いて、転倒防止ポールが抜けてしまうことがあります。

電子レンジなどの中型から小型の家電製品には、耐震ジェルマットを使用しましょう。耐震ジェルマットを選ぶ際には、「どれくらいの震度まで耐えられるのか(対応震度)」と、「どれくらいの重さに対応しているのか(耐荷重)」を確認しましょう。対応震度と耐荷重が不十分だと、せっかく使用していても、大きな地震が発生した時には、耐震ジェルマットが揺れと家電製品の重さに耐えられないということも起こってくるので、注意して選びましょう。

扉が開いて、われものが飛び出さないように

食器棚の転倒防止対策を施していても、まだ危険は残っています。
地震で大きく揺れた時には、食器棚の扉が揺れで開いてしまい、中の食器が飛び出して散乱します。スライド式の引き出しも、飛び出してケガにつながることがあります。扉が、揺れで自然に開いてしまわないような対策も必要です。

手軽なものだと、ベビーガードのような扉ロックを取り付けておくのも、一つの方法です。
ただ、開閉の多い場所は、閉じるのが面倒になって、ロックを使わなくなってしまうこともあるかもしれません。
普段はロックされずに、地震などの大きな揺れだけに反応して自然にロックのかかる“耐震ラッチ”や“耐震ロック”という便利なアイテムも、ホームセンターなどで手に入れることができます。
耐震ラッチは、基本的には木製家具にビスで取り付けます。DIYが苦手な方や、ビスが入れられない素材の食器棚には、両面テープで取り付けられる耐震ラッチもあります。
「耐震ラッチが本当に揺れを感知してロックをかけてくれるか心配」という方には、扉を閉めると自然にロックがかかり、開けるときには軽く扉をプッシュしてロックを解除する“ワンプッシュタイプ”の耐震ラッチもあります。
食器棚の素材や使い方、好みなどに合わせて、選びましょう。その際には、必ず、耐震の性能があるものかどうか、確認して購入しましょう。

収納はリスクを避けて

キッチンの地震対策の3つ目は、食器棚の中です。
お皿やグラスは、たくさん重ねていると不安定になり、地震で揺れた時には食器棚の中で崩れてしまいます。耐震ラッチをつけて中のものが飛び出すのを避けられたとしても、再び扉を開けた際に、中の食器が滑りだしてきたり、食器棚の中で割れていたりといったことが起こってきます。
食器を重ねる時には、多くても3枚程度に抑えておきましょう。食器を重ねすぎないことは、日頃の使いやすさにもつながります。
どうしても複数枚の食器を重ねたい場合には、食器の種類ごとに、サイズにあったカゴを使って、まとめましょう。
食器棚の中には滑り止めシートを敷いて、カゴにまとめた食器を収納すると、安定します。

お気に入りの食器は「見せる収納をしたい」と思われる方もいらっしゃるかも知れません。しかし、地震対策の観点では、見せる収納はあまりお勧めできません。もしも、どうしても見せる収納をしたい場合には、ガラスや樹脂製の扉のついた食器棚などを使うようにしましょう。ガラスの扉には、耐震ラッチに加えて、飛散防止フィルムを貼っておくことで、リスクを減らせます。

キッチンに吊り戸棚があるご家庭では、吊り戸棚には使用頻度が低く、かつ軽くて割れないものを納めるようにしましょう。重いものや割れ物を吊り戸棚に収納すると、地震の際には中から滑り出したものに直撃されて、大きなケガにつながります。
使いやすく安全な収納の原則は、目線から腰高までの中段によく使うものを、腰から下の下段には使用頻度が低くて重いものを、目線から上の上段には年に1回程度の使用頻度で軽いものを収めることが原則です。「目線から上には、重いものや割れ物を収納しない」と、ルールを決めて収納するのが良いですね!
防災を考えた収納をすることで、日常的にも安全で使いやすくなります。

火事に対する備えも忘れずに

調理をするために火を使うキッチン。IHもガスコンロも、現在はほとんどが地震の際には自動で切れるようになっていますが、火災への備えも大切です。住宅用消火器を備えておくようにしましょう。スプレータイプの「エアゾール式簡易消火具」も販売されていますが、天ぷら火災用など用途が限定されています。エアゾール式簡易消火具は、住宅用消火器の補助的として使用するものと考えましょう。

また、地域によっては、キッチンに住宅用火災報知器の設置が義務付けられています。キッチン以外の部屋に住宅用火災報知器を設置する場合には基本的に「煙式」を設置しますが、キッチンには、「熱式(定温式)」の住宅用火災報知器を設置します。

大きく重い家電製品や食器などのわれものもたくさんあり、日常的に火を使うことから、地震や火災の際には大きなケガにつながりやすいキッチンですが、日頃からの対策でリスクを減らすことができます。しっかりと対策をしておきましょう。

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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